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平成11年度の研究成果

海洋島観測研究班(第1班)

[広帯域地震観測班]
1)GPS週カウンターのオーバーフロー対策
 11年度のはじめになって、我々が使っている記録装置、DACS-OmegaのGPS観測系はGPSの週カウンターオーバーフロー対策がされていないことが判明した。急いで部品を調達し、9月末までには全観測点で回収が行われた。

2)耐雷対策
 これまでの故障のなかには雷によると思われる場合があった。記録計等の電源ラインにはフィルターや耐雷器による対策がされているが、電話線やGPSアンテナからの誘雷は未対策であった。 今年度、電話線やGPSアンテナなどからの誘雷防止のための部品をとりつけた。この対策により、雷による故障はかなり避けられると思われる。

3)ベトナムで広帯域地震観測開始
 以前からベトナム地球物理研究所は海半球ネットワーク計画によるベトナムでの広帯域地震観測点の開設を要望をしていた。我々は1999年7月に現地調査を行い、2000年2月にはハノイ(Ha Noi)の東約150 km、ハイホン(Hai Phong)の近くのケイアン(Kien An)に観測点を開設することが出来た (図1)。.....観測点(Phu Lien)の位置:北緯20.806度、東経106.625度、標高40m(地図上で決めた値) 観測点の名は、観測壕がある山の名前から、プーリェン (Phu Lien)とした。この場所は1982年に旧ソ連により、地震予知研究のための歪計が設置された場所である。今も深さ30m程のトンネル内に長さ12mの石英パイプが残っているが、記録システムが壊れ、観測は中断されたままである。
 頑丈な砂岩を掘り進んだトンネルの一番奥には2m四方程の小部屋があり、ここにSTS-2型地震計を設置した。記録計には白山工業のLS8000WDを使った。観測点はハノイの研究所から車で3時間ほどの所にあり、2カ月に一度、研究所から記録交換に行ってもらうことができた。

[GPS観測班]
 1999年度は西太平洋域において、GPS観測点の設置・維持、臨時観測などを北海道大学、地震研究所、名古屋大学、京都大学、高知大学、九州大学などが協力して実施した。その結果に基づき、以下に示すように、プレート境界域におけるプレート運動に関して時空間変動を検討した。 また、国際研究集会として1999年10月にGPSに関するシンポジウムを共催した。

1.プレート境界におけるGPS観測とその成果

1)西太平洋GPS観測網の成果
 GPS連続観測網が様々な観測プロジェクトによって整備されつつある。1998年頃から「GPS気象学」プロジェクトにより中国の天津や長春に観測点が設置された。また、水文学・気候学のGAME-Tプロジェクトによってタイに5ヶ所の観測点を設置した。 但し、これらについてはまだ観測開始から日が浅いため、信頼に足る変位速度は得られていない。IGSや地理院の完全公開観測点7点を含め39観測点で観測と解析を引き続き実施した。この結果、1995年7月〜1998年6月の3年間の変位速度場を算出することができた (図2)。
図2 西太平洋〜アジアにおけるGPS観測による変位速度ベクトル。
黒:WING、IGSなどの固定連続観測によって推定した変位速度(1995年7月〜1998年6月)、灰色:繰り返し観測による変位速度(観測期間は1992〜1999であるが、観測点によって時期は異なる)。ユーラシア大陸安定地塊を不動と仮定。
2)ヤップパラオにおけるGPS観測と解析成果
 1992年以来のヤップ・パラオの地域における繰り返しGPS観測を継続し、蓄積したデータの解析を実施した。観測にはUliti、Faisなどの太平洋側の島における観測も含まれる。ヤップ海溝においては太平洋側から1cm/yrの沈み込みを確認した。 パラオは連続観測と繰り返し観測では変位速度場に有意な違いがあるので、もうしばらくの観測データの蓄積が必要と考えられる (図3)。
図3 フィリピン海南東部の変位速度分布。黒:ヤップパラオGPSキャンペーン(繰り返し観測)による。灰色:固定連続観測及びその他の繰り返し観測による。白:剛体プレートモデルからの推定。

3)インドネシア・フィリピン国境域におけるGPS観測とその成果
 フィリピン海溝南端において、1997年に開始した繰り返しGPS観測を現地の研究機関や大学と協力して1999年11月に実施した。インドネシア側で高速艇の就航など観測環境は改善されたが、それでもアクセス困難な観測網である。 1997年からのデータを周辺観測点と結合し、解析を進めた。フィリピン海プレート上に位置するPBLSでは10 cm/yrを越える変動ベクトルがユーラシアプレートに対し観測されたが、ユーラシアプレート・スンダブロックに位置するTHANなどの観測点ではプレート沈み込みによる変動がほとんど観測されていない。 これは、非常にルーズなカップリングを示唆している(図4)。
図4 1997年〜1999年の間にフィリピン海溝周辺域でGPSにより観測された地殻水平変動ベクトル(1年間あたりの速度)。上:ユーラシアプレートに対する変動、下: スンダブロックに対する変動。
4)サハリン・カムチャッカにおけるGPS観測とその成果
 カムチャッカでは現地研究機関と協力し、カムチャッカ半島内で連続GPS観測を継続した。サハリンでは、プレート境界を議論する目的で昨年度設置したサハリン南部でのGPS観測網において、2回目の臨時観測を実施した。 その結果、プレート境界がユジノサハリンスク付近を通過することを示唆する観測結果が得られた。

2.「GPS国際シンポジウム」の開催
 標記国際シンポジウムが「海半球ネットワーク計画」他の主催により1999年10月18〜22日につくば国際会議場にて開催された。39の国と地域(日本を含む)から366名(国内190名、国外176名)の参加を得た。14のセッションにわかれ、300件を超える研究の発表があり大変な盛会であった。 本シンポジウムの成果はEarth, Planets and Space誌の特集号として2000年末頃出版の予定である.
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