STS-1型地震計の超長周期ノイズ
山田功夫(名古屋大学大学院理学研究科)
[はじめに]
STS-1型地震計の長周期ノイズは気圧変化に大きく影響されていることが知られている(山田他, 1989)。ところが、数時間に及ぶような周期帯でのSTS-1型地震計のノイズを見ていると、観測点毎にひどく違っていることに気が付く。ここではその一部を紹介する。
[超長周期ノイズの記録]
図1には犬山、大田(韓国)、石垣島観測点でのSTS-1型地震計の記録を示す。それぞれ観測点毎に最上段が上下動成分、下段が水平動二成分(上がN-S、下がE-W)であり、犬山の場合は最下段に気圧変化(気圧の時間微分)を示す。それぞれ上下動の記録は水平動に比べて10倍の感度で示されている。これらの記録は時間軸がひどく圧縮された見慣れない波形である。
3観測点の上下動成分共通に見られる変化は地球潮汐である。3観測点の波形は良く一致しており、重力計による地球潮汐の変化が1x10-6 cm/sec2のオーダーであることから、ここでの振幅はほぼ正しく観測されている。このようにSTS-1型地震計の上下動成分は気圧変化などの外部擾乱を受けにくく、安定していることが分かる。ところが、水平動成分の長周期ノイズは上下動成分に比べて数倍以上大きく、顕著な地球潮汐は見られない。観測点毎の波形もかなり異なる。図1に見られるように、犬山の水平動記録の長周期ノイズは気圧変化に良く対応する。
一方、大田観測点の水平動記録にははっきりとした1日周期が見られる。N-S成分の振幅がより大きく、現地時間の9時から14時頃にかけて大きく変化し、その後落ち着く。変化は1日毎の繰り返しではあるが正弦波的ではなく、ひどく歪んだ波形を示す。大田の地震計室は20 m以上の深さの横穴であり、地震計が外気温度の変化に影響されているとは考えにくい。
石垣島のE-W成分にはパルス的なノイズが目立つがこれはフィードバック回路の電気的な問題であろう。それを除くとN-S成分とともにノイズは小さく、E-W成分には地球潮汐も見られる。
[ノイズの原因]
図1において、犬山での気圧変化にはほぼ1日周期の振幅変化があり、水平動ノイズはこれに良く対応する。確かに犬山や石垣島に見られるノイズは気圧変化の影響であろう。しかし、大田での1日周期のノイズはこれとは明らかに異なる。大田での水平動ノイズは犬山での気圧変化の振幅変化(ほうらく線)に似ている。大田の場合、気候がより大陸的であり、気圧の変化がより周期的であることが想像され、これが水平動ノイズに影響している可能性はある。
図1 犬山、大田(韓国)、石垣島観測点におけるSTS-1型地震計の超長周期ノイズ。各上下動の記録は水平動に比べ10倍の感度で表されている。
日変化をする例として、柿岡での地磁気変化の記録を図2に示した。地磁気は午前中に大きく変化し、午後は安定しており、特に全磁力変化の波形は大田でのE-W成分に良く似ている(+/―逆転)。さらに、3月31日には今世紀最大といわれる磁気嵐があり、地磁気の記録も大きく乱れている。このとき、大田の水平動日変化には短周期成分が多く含まれており、磁気嵐前(3月30日)や磁気嵐後(4月3日)の短周期成分は小さい。このように地磁気の変化と地震計水平動のノイズが関係しているかのようにも見える。もし、水平動成分が機構的な問題で地磁気変化の影響を受けるとするならば、地磁気変化は広範囲な現象であるので、どの観測点においても影響を受けるであろうが、犬山や石垣島ではその影響は見られない。よって、大田の水平動に見られる日変化は地磁気変化の影響とは考えにくい。
図2 3月31日の磁気嵐を中心とした、柿岡での地磁気3成分(H、Z、D)および全磁力(F)の変化(地磁気観測所のホームページより)。
[おわりに]
犬山や石垣島での水平動長周期ノイズは確かに気圧の影響を強く受けているが、大田での長周期水平動ノイズ(1日周期)の原因は良く分からない。3観測点とも設置方法が少しずつ異なり、その影響も考慮する必要があろう。よりノイズの少ない地震計の設置方法や次世代の地震計を開発する上で、これら長周期ノイズの原因を解明していくことは重要であろう。