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フィリピン海横断測線での長期海底地震・

電磁気機動観測


塩原 肇(東京大学地震研究所)、島 伸和(神戸大学理学部)


[はじめに]
 海半球ネットワーク計画の一環として、西太平洋から中国大陸に至る、いわゆるマントル下降流地域の構造を詳しく調べる目的で、図1に示すような中国大陸からフィリピン海を横断する測線による地震電磁気海陸機動観測を実施した。ここで紹介するのは、フィリピン海での海底地震・電磁力計アレーによる長期海底観測(図2)についてである。フィリピン海は西太平洋に位置する縁海の1つで、西フィリピン海盆、四国・パレスヴェラ海盆、マリアナトラフの3つの海盆から成り立っている。これまでの研究から、これらの海盆は西側から順次拡大して形成されたことが分かっている(例えば、Karig, 1971)。この測線はこれら形成年代の異なる海盆を横切っており、本観測の成果からフィリピン海形成のテクトニクスなどの重要な知見が得られるものと考えられる。

図1 中国大陸・フィリピン海横断長期地震・電磁気観測の全体図。周辺の海半球計画陸上観測点及び北西太平洋の機動的広帯域海底観測点(NWPAC1/2)も併せて示している。
図2 フィリピン海横断測線上での海底地震計(LTOBS, 丸)と海底電磁力計(OBEM, 十字)の配置。(WPB:西フィリピン海盆、SB:四国海盆、PVB:パレスヴェラ海盆、MT:マリアナトラフ)

[観測の概要]
 海底観測は1999年11月(設置)から2000年7月(回収)までの約8ヵ月間にわたって行なった。海底地震観測では15台の長期海底地震計(LTOBS、図3)を約100 n.m.(185 km)間隔で展開した。LTOBSは低消費電力な稍広帯域のセンサーと、チタン球耐圧容器を採用することで長期観測を可能としたもので、その特徴となる仕様を以下に説明する。

図3 長期型海底地震計(LTOBS)のセンサー(上)、組立(中)、設置時の全体像(下)。


1)耐圧容器として直径50 cmのチタン球を採用することで浮力・内容積を増やし連続250日以上の観測を可能とした。海水に触れる金属は錘切り離し部の電蝕用薄板も含め全てチタン材とすることで腐蝕による動作不良を避けている。機動的観測を実現するため自由落下・自己浮上による設置・回収方法を採っている。

2)稍広帯域のセンサーとしてPMD社製のWB2023LP(0.033-30Hz)を採用した。これは流体中のイオンの移動による電位変化から振動を検出する原理で、姿勢が水平でなくても機能するためジンバルによる姿勢制御が不要である。但し、傾いている場合には上下動成分に水平動成分が含まれてしまうので、別途傾斜角等を定期的に記録している。また海底地震計での密閉・恒温の環境では不要なカバー類をセンサーから外し組み直すことで、大幅な軽量化を施した。

3)耐圧容器・センサー以外の部分はCMG-1Tセンサーを採用した広帯域地震観測用の海底地震計と同様な構成である。連続記録を行い2.5インチ6.5 GBハードディスク(HDD)4台を記憶媒体としている。

 これらの改良により長期観測に要する電源の容量を確保する事が可能となり、多点展開が容易な自己浮上型海底地震計としての形式を保ったままで250日の連続観測を余裕をもって実現している。
 設置時には音響トランスポンダーとGPSによる海底測位を、回収航海では可能な限り多くの観測点でエアガン1基(1000 cu.in.)による浅部構造探査も実施した。LTOBSは無返答・離底不能各1台を除く13台を回収したが、機器の不調が生じた4台でデータが得られなかった。しかし、測線が横切る3つの海盆への平均的な観測点配置は確保することができた。また、少数のHDDにおいて正常に書き込まれているにも関わらず読み出し不可能な箇所が発生した。しかし、PHS03で2001年1月分のデータに大きな損傷がある他は問題ない程度である。
 海底電磁気観測は、海底地震観測と同じ測線に6台の海底電磁力計(OBEM、図4)を設置して実施した。OBEMは、電場水平2成分と磁場3成分、傾斜を1分毎に測定・記録する。全てのOBEMは無事に回収され、得られたデータは次の4点を除きおおむね良好であった。
1)OBEM3は、回収時には耐圧ガラス球の一部が浸水しており、有効なデータが1ヶ月しかなかった。
2) OBEM1は、最初50日間の電場のデータが使えない。
3)OBEM2には12日間のデータの欠落がある。
4)電場データには、電極が原因と考えられる大きなドリフトとスパイク状のノイズが含まれている。

図4 海底電磁力計(OBEM)の外観(上)と回収時の様子(下)。

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