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平成9年度の研究成果

システム開発研究班(第3班)

超伝導重力計観測
海底電磁気観測
海洋島電磁気観測
海底地震観測システム
海洋底地球物理観測
[超伝導重力計観測]
超伝導重力計は重力の変動を高精度で測定する装置であるが、その特徴の一つは長期安定性である。この性質を使って、従来の地震計では観測できなかった地球の固有振動周期より長い周期帯での地球振動の検出や、流体核や内核の動きをとらえられる可能性があるが、これらの観測にはグローバルな観測が必要とされ、国際的な共同観測が不可欠である。超伝導重力計観測の国際協力に関しては、平成9年7月にGGP(Global Geodynamics Project)が開始され、日本のグループは、日本─インドネシア─オーストラリア─南極・昭和基地で構成される観測網の構築を目指してきた。平成9年1月にはオーストラリア国立大学ストローム天文台での観測(国立天文台が担当)を開始し、平成9年12月には、超伝導重力計をインドネシアに移設(京都大学が担当)して観測を開始した。これによってネットワークとしての観測が動き出した。 この観測網は、従来は北半球に偏在していた超伝導重力計の観測点配置をいっきに南半球に広げるものであり、グローバルな広がりを持った微弱な信号の検出を目指している。今後はこの観測網でのデータの蓄積が期待されている。文頭へ
[海底電磁気観測]
 海半球ネットワーク計画で建設しようとする太平洋の広域観測網では、海底に設置される観測所の役割が大きい。電磁気ネットワークでは、海洋島での観測点設置に加えて、島のない北西太平洋地域を中心として、海底電磁気観測所を設置することを予定している。平成9年度には、 この観測所に設置する予定の海底8成分電位磁力計(図1)がほぼ完成し、約40日間の海底観測を実施した。
 完成した海底8成分電位磁力計
この装置は、全磁力(オーバーハウザープロトン)、磁場3成分(フラックスゲート型)、電場水平2成分、傾斜2成分、の合計8成分を1年程度の長期にわたって、30秒の時間間隔で測定、記録することができ、ほぼ陸上の地磁気観測所に匹敵する機能を備えている。さらに、この装置は長期観測のためにリチウム電池による電源と、信号を海底から海上に伝送するための超音波装置を装備している。電源に関しては、回収の際に浮力を確保するために、現在は1年程度の連続観測が可能であるが、さらに長期観測にも対応できる。  平成8年度には、この装置の前身である全磁力計を用いて北西太平洋と駿河トラフで短期の観測を行ったが、 平成10年2月には完成した装置を用いて、 北緯9 度、東経149度の太平洋で、40日間の観測を行った。装置の設置と回収には東大海洋研の白鳳丸を使用した。観測結果の例(磁場3成分)を図2に示す。この地点は海洋島観測地点のポンペイ島に近く、島の観測との比較が可能と考えている。  海半球の観測網では長周期の電磁場変動を捕らえることを目的とするので、長期的な安定性が必要である。このために、安定性の保証されているプロトン磁力計によって全磁力を測定し、フラックスゲート磁力計による3成分測定の安定性をチェック及び補償するシステムを考えている。今回の40日間の測定結果では、フラックスゲート磁力計で得られる3成分から計算される全磁力は、プロトン磁力計の記録に比べて40日間で約6nTのドリフトが見られた(図3参照)。今後は、これらの測定から、フラックスゲート磁力計の3成分を補償する手法を考察する必要がある。さらに、今回の実験では観測データの超音波伝送試験を行ったが、 1200 bpsの伝送速度では、5000 m以上の距離では信頼性の高い伝送は行えず、今後の改良が必要である。文頭へ
[海洋島電磁気観測]
海洋島電磁気観測グループでは、平成9年3月にポンペイ島に地磁気観測所を設置したのに引き続き、平成9年7月に南米ペルーのワンカヨに、8月にはキリチマチ島(クリスマス島)に観測点を設置した。また、中国東北部及び南鳥島での予備調査を行った。  キリチマチ島には8月20日から27日の8日間滞在し、装置の設置のための穴掘りから開始したが、NASDA基地のご協力により、期間内に無事設置することができた。ここでは、柿岡地磁気観測所の大和田毅さんに同行していただき、地磁気絶対観測を行った。キリチマチ島の観測点は北緯2度3分、西経157度27分の場所であり、低緯度なので北極星を使用することができない。このためにぎょしゃ座αとカシオペア座βを用いて測定を行ったが、ほぼ必要な精度を得ることができた。例年に無くキリチマチ島の天候が悪かったために、星の観測は大変であった。  中国では、国家地震局の趙国澤教授に相談したところ、吉林省長春の地磁気観測所が設置場所として適当であろうということであった。そこで、平成9年8月に現地を訪問して我々の装置を設置するための調査を行なった。幸い、観測所の変化計を設置している地下壕に設置スペースが見つかった。また、観測所にはアナログ低感度の磁力計しかないので、我々の装置を設置してデータを共有できれば、中国側にとってもメリットが大きいこともわかった。設置時期は、平成10年度のできるだけ早い時期ということで双方が了解した。  これまでに海半球計画で設置した観測点は、いずれも現在稼働中である。表紙の図は、この3点で測定された地磁気水平成分の4日間の変動を日本の柿岡地磁気観測所での記録と比較したものである。昨年設置した観測点はすべて低緯度にあり、赤道上空を流れる電流系による磁場変動が見られる。特にワンカヨは磁気赤道に近く、短周期の変動が顕著である。また、数時間の変動は経度方向に移動しているように見える。文頭へ
[海底地震観測システム]
 海半球ネットワークにおいては、海底設置型または海底下埋設型センサーによる地震観測手法を確立して、機動的な広帯域・長期海底地震観測を実現することが重要である。このため、平成9年度も、広帯域地震センサー、低消費電力・大記憶容量・高精度記録器、海底電源、準リアルタイムデータ伝送、海底記録の時刻精度の向上といった要素技術の開発を継続したほか、開発した要素を自己浮上型海底地震計に組み込んでの海底試験観測を行った。詳しくは、別稿を参照されたい。 文頭へ
[海洋底地球物理観測]
 地球上で最も大きな変動が起こっている海洋プレート境界の大部分は、電磁波の届かない深海底にあり、直接GPS等でその変動を測定することはできない。海洋底地球物理観測の主要な目的の一つは、長期観測や繰り返し観測により、プレート境界における海洋底の変動を観測する事である。  水平変動を観測するための基礎となる技術として、海中音測距システムの開発を進めている。これまで相模湾の海底において、1-2 kmの基線長で試験観測を行ってきており、水温変化の影響も合わせて、数 cm程度の分解能の測距は可能になってきた。今後は深海における、より長距離の測距実験が必要である。平成9年度はさらに、海上キネマティックGPS測位と合わせて海底の水平変動を観測することを目指した測距システムの開発を開始した。  また、鉛直変動を検出することを目指して、海底における圧力と重力の観測システムの開発を進めている。両方の観測により、海洋の変動と海底の変動を分離することが期待できる。9年度は、2台の海底圧力計を相模湾の海底に約2km離して設置し、6ヶ月以上の観測を行った。2つの圧力データの差を見ると、半年で鉛直変動約6cmに相当する一様なドリフトがあるが、ドリフトレートが一定であるので、数 cmの相対的な鉛直変動は検出できることが確かめられた。海底重力計は自己浮上型に改造し、駿河湾北東部において約1日間の海底観測を行った。得られた結果は、数マイクロガル(rms)の測定ができたことを示している。文頭へ