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「海半球国際シンポジウム」開催す

川勝 均(東京大学地震研究所)
  平成9年11月6-8日、千葉県かずさアカデミアセンターに於て「海半球国際シンポジウム」がOcean Hemisphere Project (OHP) international symposium on"New Images of the Earth's Interior through Long-term Ocean-floor Observations"と題して開催されました。このシンポジウムは、「海半球ネットワーク計画」の国際的なお披露目の場として、また平成9年度に地震研究所に設置された海半球観測研究センターの船出を記念する意味も含めて催されたものです。会議には、当初の予定を大幅に上回る120人程(うち海外39人)の参加者がありました。その後他の国際会議で参加者に会う度に「あの会議は良かった」と言われるような、大成功の国際会議でした。
会議の開催の挨拶をする深尾教授 (地震研究所海半球観測研究センター長)
  今回のシンポジウムでは、総合的な地球観測の解明すべき具体的な目標の優先順位、現在の観測がもたらしつつある成果、これらを踏まえて次への先端的ステップをいかに効率的にふみだすかを国際的な場で議論し検討しました。具体的には、2のポスターセッション("OHP Network and Seafloor Observations"; "Geodynamics and Seismology")と6の口頭発表のセッション("Oceanic Plates, Upper Mantle, Global Structure"; "Mantle Tomography"; "Slab, Mantle Transition Zone"; "Mid and Lower Mantle"; "Anisotropy, Mantle convection, D", Plumes"; "Through the Looking-Ocean-Floor: New Challenge")とで計100の講演がありました。
  外国からの主だった講演者は以下のとおりです。
D. Bercovici (U Hawaii), J. Gaherty (MIT), T. Tanimoto (UC Santa Barbara), S. Karato (U Minnesota), W. Mooney (USGS), B. Romanowicz (UC Berkeley), A. Schultz (U Cambridge), S. Grand (U Texas), S. Widiyantoro (Bandung Institute of Technology), A. Dziewonski (Harvard U), M. Gurnis (Caltech), C. Bina (Northwestern U), D. Wiens (Washington U), F. Tajima (U Texas), L. Vinnik (Moscow), C. Estabrook (GeoForschungs -Zentrum Potsdam), A. Forte (Paris), D. Yuen (U Minnesota), M. Hedlin (UC San Diego), J.-P. Montagner (Paris), P. Tarits (U Bretagne Occidentale)
講演風景(海半球の地下深部の構造が如何に 不可解か発表するハーバード大学 Dziewonski 教授)
  このように現在第一線で研究している人たちが集まって、熱い議論が交わされました。名古屋大学のグループが発見した「地球の常時自由振動」の研究も、初めて外国の研究者の研究者に公開され、驚きの目をもって受け入れられましたし、地震研究所のグループが報告している下部マントルの不連続面の意味についても議論が集中しました。
  今回のシンポジウムの特徴は、地震学・地球電磁気学・マントルダイナミクス・地球内部物性・海底観測の各々の分野の第一線の研究者が同じ土俵に上がり、マントル内の不均質・物質の循環などの問題を議論した点にあります。 海半球ネットワークが目指すような 総合的な地球物理観測により初めて明らかになるであろう問題点への期待が大きくふくらみました。海底観測に先鞭をつけている日本のリーダーシップにより、グローバルな観測網の新展開の方向性を定める重要な会議となりました。シンポジウムの成果は、1998年から始まった新しい日本の 地球惑星科学の総合ジャーナル "Earth, Planets and Space" の特集号(1998年12月号)として公表される予定です。
シンポジウムを主催して、多くの参加者から「参加してよかった」といううれしい言葉をいただきましたが、特に印象に残ったのは、何人かの外国の参加者から「非常に constructive な会議であった」と感想を聞かされたことです。近年世界中で様々なシンポジウムが開かれており、今回の外国からの参加者の多くはそれらの会議の「常連」といってよいような方々でした。そのような国際会議では、しばしば自己主張型の議論が続くことが多いようですが、なぜか今回は自己主張の強い人たちも constructive に議論をしていたようです。 これには二つの理由があると考えられます。 ひとつは海底での定常観測という難しい問題に挑んでいる海半球計画への期待感・共感によるもの。シンポジウムの性格上「こういうことがわかるようになる」「こういうことができるとよい」という形の constructiveな議論になり易い土壌があったことです。もうひとつは、今回の会議が日本という場で、日本の主導で行われたことです。海外の研究者の多くは、日本(人)に対してステレオタイプ的なイメージを抱く人がいまだに多く、「和の精神」に代表される考え方が社会のコンセンサスであると受け取られているようです。そのような国で開かれた会議であるから、 自分たちもそのように振る舞おうという意識が参加者にあったのではないかと想像します。科学という、創造性が重要なテーマであるものを進めていく中で、しばしば negative にとられがちの日本の文化の特性が、シンポジウムといった別の局面では positive に働くこともあるという不思議で愉快な発見をした会議でもありました。科学の様々な局面で日本が世界に貢献できる可能性を感じさせられたシンポジウムでした。文頭へ
ポスターセッション風景