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平成10年度の研究成果

平成10年度の研究成果

海洋島観測研究班(第1班)

[広帯域地震観測班]
[GPS 観測班]
1)アムールプレート周辺域におけるプレート運動
2)マリアナトラフの背弧拡大
3)フィリピン海プレート南西端におけるプレート運動
4)参考文献
[広帯域地震観測班]
 平成8年度開発された海半球ネットワーク広帯域地震観測用記録システムへの切り替えは順調に進み、平成9年度には6観測点、平成10年度には父島(小笠原)、ポンペイ(ミクロネシア連邦)、パラオ(パラオ共和国)が新システムに切り替えられた。 これによって、残るはカメンスコエ(ロシア)のみとなった。父島観測点はPOSEIDON 計画中に一度観測点の移設が行われたが、以後同じ場所で継続して観測が行われてきた。今回、海半球用観測システムに切り替わり、観測は順調に進んでいる。 この観測点は国内の観測点ではあるが、電話回線が衛星回線のため遅れ時間が大きく、ダイアルアップを利用したデータ収集には不向きである。
 ポンペイ観測点は POSEIDON 計画によって開設された観測点で、それ以来観測が継続されてきた。観測点はほぼ円形のポンペイ島の東端に位置し、現地の高校(PATS)の一角に地震計室がある。今回は観測システムの交換のみで問題なく観測が始まった。
 パラオ観測点は国の中心地、コロールの町の中にあり、 第2次世界大戦中の日本軍の使っていた地下壕を利用していた。しかし、かねてから場所の移転を要求されており、記録システムの入れ替えを機会に移転できるよう準備を進めてきた。 新しい観測点はこれまでの観測点から西へ数100 mの PCC(パラオ・コミュニティー・カレッジ)の敷地内にあり、 校庭の西端の急斜面を利用して地震計室(地下)が作られている(図1)。記録計を置き、記録の交換など観測の援助をお願いしているのは、この短大のサイエンス・ラボである。

図1 パラオ観測点正面からみた入口
[GPS 観測班]
 西太平洋域でのGPS観測も2ー3年を経過し、プレート運動が具体的に議論可能な状況に至った。以下に、アムールプレート周辺域、マリアナトラフ域、フィリピン海南西部域における GPS 観測から得たプレート運動をまとめる。

1)アムールプレート周辺域におけるプレート運動
 笠原・高橋(北大理)、木股(名大理)が主として担当している。10年度は、カムチャッカ・サハリンにおける連続観測を継続すると同時に、アムール/オホーツクプレート境界を議論する目的で、 サハリン南部域においてGPS臨時観測1回目を実施した。
 図2(左)に、アムールプレート上の観測点、Yuzhno-Sakhalinsk, Khabarovsk, Vladivostok, Taejonで得られた速度ベクトル(図中の白抜き矢印)を用いて推定したアムールプレートの Euler Vector から予想される速度場(ユーラシア固定)を黒色のベクトルで示す(高橋・他, 1998)。 図はHeki(1996)の結果を用いて、ユーラシアプレート固定として表現する。 アムールプレートの運動により日本海東縁部で1cm/yr弱の収束が期待される。
 図2(右)にYuzhno-Sakhalinskと北海道のGPS観測から求められた速度場(Miyazaki and Hatanaka, 1997)をユーラシア固定として表現する。図からYuzhnoより北海道北部にかけて東向きの速度場になっていることが明瞭である。 この東向きのベクトルは、アムールプレートの東進運動を表わしていると考える。従来提唱されてきたプレート境界を実線で示す。 GPSの結果と、北海道北部では内陸中軸部での浅発地震活動が、従来提唱されてきたプレート境界付近の地震活動にくらべて活発であることなどから、図2(右)に破線で示すような、1940年積丹半島沖地震(M 7.5)の震源域(北緯44度付近)から、東側にシフトし、 北海道北部中軸浅発地震帯を北上しYuzhno-Sakhalinsk東方に抜けるラインがアムール/オホーツクのプレート境界と考えることも可能である。この新たなプレート境界は、北海道中軸部からサハリンにかけて発達する蛇紋岩帯に相当し(岡, 1997)、地質構造との関連が示唆されている。

図2左 極東ロシア・韓国における GPS 観測から求めた水平変動とアムールプレート運動
右 サハリン・北海道における GPS 観測から求めた水平変動ベクトル
2)マリアナトラフの背弧拡大
 マリアナトラフは現在もアクティブに拡大を続ける背弧である。この背弧拡大の現在の拡大速度とその空間分布を精密に検出し、この地域のテクトニクスとプレート沈み込みの力学の解明に役立てるために、東大(加藤他)・九大(松島)のグループがこの地域のGPS観測を実施した。
 マリアナ弧は南端のGuamから北にのびる一連の島弧を形成しているが、Saipanより北は基本的に無人島であるためアプローチが容易ではない。それでも、1992年及び1994 年に北マリアナ諸島においてGPS観測用の基準点が米国チームによって設けられ、 観測が実施された。 1997年度及び1998年度には日本チームによってこれらの観測点の一部がはじめて改測された。日本チームは南からGuam, Saipan, Anatahan, Guguan, Pagan及びAgrihanの6島7点でGPS観測を実施した。 基線解析に際してはGuamに設置した観測点(AAFB)を基準点としてBernese基線解析ソフトウェアを用いて解析を実施した。もしマリアナトラフが拡大していないとすると、マリアナ島弧はフィリピン海プレート上にあると考えられるが、フィリピン海プレートの剛体的変位は既に小竹・他によって精密に求められている。 今回は、これを基準として、GPS観測から得られた変位速度と仮想的剛体変位の差を求めることにより、マリアナ島弧の局所的変位場を求める、という手法を用いた。この結果、各観測点の局所的変位速度及び方位は北から順に、以下のようになった。
Agrihan (12.4 mm/yr, N 113 E)
Pagan (26.0 mm/yr, N 70 E)
Guguan (28.9 mm/yr, N 73 E)
Anatahan (40.0 mm/yr, N 75 E)
Saipan (46.3 mm/yr, N 83 E)
Guam (57.8 mm/yr, N 93 E)
 この結果を表紙の図に赤色のベクトルで示す。
表紙の図 マリアナトラフ周辺地域におけるGPS観測から求めた水平変動ベクトル


前記の結果のうちAgrihanは1997年と1998年の2回しか観測がなく推定値の信頼度が低いので図には示していない。他は1994、1997、 1998年の観測から求めた値で信頼度が高い。 また、沖の鳥島や南鳥島(Marcus)のデータも合わせて示してある(Kato et al., 1998)。図中、黄色で示したベクトルはこれらの島がフィリピン海プレート上(南鳥島については太平洋プレート上)にあるとした時の剛体変位を示すものであり、黒色矢印はこれらの島のユーラシアプレートに対する変位速度を示す。 この図の局所変位(赤色矢印)から明らかなように、マリアナ弧はフィリピン海プレート本体部に対して明らかに東に向かって変位しておりマリアナトラフの拡大を強く示唆する。
さらに、この変位速度場は北に向かって次第にその速度が減少している。マリアナ島弧が一つの剛体ブロックに載っていると仮定してそのフィリピン海プレートに対する回転極を求めると図中星印で示した位置にくる(95 % の信頼限界楕円を同時に示す)。 この位置はマリアナトラフの開始点である北緯24度付近より有意に南に寄っており、現在のマリアナトラフの拡大が拡大の開始時よりは南側にその中心を移しているともいえるかもしれない。しかしながら、より精確にマリアナトラフの拡大様式を求めるにはAgrihanやさらに北方の島々の改測を今後進める必要があろう。

3)フィリピン海プレート南西端におけるプレート運動
 フィリピン海プレート南西端におけるプレート運動を解明する目的で、木股(名大理)、田部井(高知大理)、大倉(京大総合人間)は、インドネシア・フィリピン国境域で繰り返しGPS観測を1997年から開始した(木股, 1998)。そして、1998年12月に2回目の観測を実施した。
1997年、1998年の2年間、それぞれ1週間の観測から、海半球プロジェクトで設置された周辺のGPS連続観測点を加えて解析し、年間の水平変動ベクトルを求めたものを、図3に示す。
図3 フィリピン海南西部における臨時 GPS 観測から求めた水平変動べクトル
Heki(1996)による「つくば」におけるユーラシアプレート安定内部に対するベクトルを参照点として求めた変動ベクトルである。
 すでにヨーロッパと東南アジアの研究者による共同研究として、DavaoやManadoにおける変動ベクトルが1994年と1996年の繰り返し観測から検出されている(Wilson et al., 1998)。彼等はフィリピン西方からインドネシアまでの地域で、ユーラシアプレートに対し、北東方向に1ー2cmの変動ベクトルを観測し、スンダブロックと称している。
 今回の結果もフィリピン西方のPalawanから Tahuna、Manadoまでがスンダブロックとして同様な変動を示すが、その収束方向は北東から90度異なり、南東である。一方、フィリピン海溝に沿いDavaoからMelonまでは、フィリピン海プレート収束運動を反映した水平変動ベクトルを示す。 瀬野のモデルでは、当該地域でのフィリピン海プレートの速度は西方向へ7ー6cm/yr と求まっているが、今回、DavaoからMelonで観測された変動ベクトルは4cm/yr に達しない。
 まだ2回、一年間の繰り返し観測に過ぎず、スンダブロックでのベクトル方位の違いや、フィリピン海溝西部での水平変動とプレートカップリングの固着度などに関する議論は今後の課題である。

4)参考文献
Heki, 1996, JGR, 101, 3187-3198.
Kato et al., 1998, Geophys. Res. Lett., 25, 369-372.
木股, 1998, 海半球ネットワークニュースレター,No. 2, 23-26.
小竹・他, 1998, 地震、51, 171-180.
Miyazaki and Hatanaka, 1997, EOS, 78, S104.
岡, 1997, 加藤誠教授退官記念論文集, 427-449.
高橋・他, 1998, 測地学会第90回講演予稿集, 61.
Wilson P. et al., 1998, EOS, 79-45, 547-549.