目次へ

平成10年度の研究成果

海洋底観測研究班(第2班)

 平成10年度は計画の3年目にあたり、平成11年度に予定されている日本海溝での海底孔内地球物理観測点の設置にむけて、 測器の開発製作および陸上における試験観測点の設置、性能試験、9年度までに開発した広帯域海底地震計を用いた機動観測を実施した。 以下にその成果の概要を述べる。

1)鋸山における孔内設置型地殻変動複合観測システムの陸上設置試験と観測
平成11年度にODP Leg 186航海で三陸沖に建設される孔内地球物理観測点と同等なシステムを、東京大学地震研究所鋸山地殻変動観測所の200 m孔井に設置した。 これは、海底孔内に設置するシステムの性能を事前に評価することと、設置方法に関する試験を行うことを目的としている。鋸山地殻変動観測所の観測壕には、 傾斜計、STS-1広帯域地震計などの測器が設置されており、今回のシステムからのデータと観測所のデータを比較することにより、孔内地球物理観測点システムの性能を知ることができる。 設置した観測システムは、グラルプ製CMG1T広帯域地震計、PMD2123型広帯域地震計、Applied Geomechanics Model 510高感度傾斜計、 DTM製サックスエバートソン型高感度体積歪み計から構成されている。 歪み計は、最小10-12 の歪み変化、傾斜計は 10-8ラジアンの傾斜変化を捉えることができる。 CMG1T広帯域地震計は観測帯域 0.00277-50 Hz、PMD地震計は、バックアップ地震計として、0.033- 20 Hzを観測帯域としている。 孔底の計測器からのデータは、CMG1T広帯域地震計がデジタル伝送、他のセンサーはアナログ伝送され、地上で A/D変換される。 測器群は、パイプに取り付けられ、深さ200 mの孔の底から1mほどの間隔をおいて吊り下げられた(図1)。
図1 鋸山地殻変動観測所の縦坑内に地殻変動複合観測システムを挿入、設置しようとしているところ。 セメント固定のためのパイプに上からPMD型広帯域地震計、高感度傾斜計、CMG1T型広帯域地震計、DTM 型高感度体積歪み計が取り付けられている。センサーからの信号は、パイプに沿ったケーブルで地上まで伝送される。

機器の動作確認を行った後、膨張剤を配合したセメントを吊り下げたパイプを通して孔底に圧送して、センサー全体を含めて孔底から30 mまでをセメント充填し、センサー群を固定した。 センサー群からの信号は、4本のケーブルで地上の記録システムに送られる。システムの設置、すなわち孔内に挿入したセンサ群のセメントによる固定は1998年8月上旬に行われた。 セメントの固化には数週間かかるため、観測は8月の下旬から開始した。当初は地震計や歪み計収録器のソフトウェアの問題があったが、それらの問題は修正され、現在は連続的に観測を行い、 観測所内に設置した収録システムのハードディスクにデータを蓄積するほか、地震発生時などには電話回線を用いてイベントデータの取得を行っている。 各センサの作動状況であるが、地震計は8月末の観測当初から、同観測所の横穴に設置されたSTS-1と比べ環境ノイズで帯域によって5d 程度良好な結果を得ている。またセンサがつながれ地上まで続いているパイプへの衝撃もセンサには直接伝わらないことから、 セメントによる周囲の固定がしっかりとなされたことが確認された。傾斜計は、潮汐による傾斜変動を観測し、その振幅は同観測所に設置されたレーザー傾斜計と調和的である。 歪み計は、セメント注入から1ヶ月の時点でも、なおセメントの固化に伴う連続的でかつ地殻変動に比べて大きな膨張を観測した。 その膨張率は歪み計のダイナミックレンジを越えて大きいため、その時点では潮汐などの長周期の地殻変動をはっきり認めることはできなかった。 しかし、地震などの比較的短周期の変動はその時点でもはっきりと歪み計に認めることができた。設置直後の1998年8月28日に東京湾を震源とする有感地震が観測された。 歪み計の記録には、ステップ状の信号が地震中に明瞭に観測された(図2)。
図2 東京大学地震研究所鋸山地殻変動観測所孔内に設置した高感度歪み計、広帯域地震計の地震記録例。地震は東京湾下を震源とする有感地震。0.1 Hzのローパスフィルターをかけている。 上から孔内の歪み計、CMG1T 型広帯域地震計水平動2成分、垂直動を示す。一番下には比較のため、横穴に設置されているSTS-1型広帯域地震計の垂直動を示した。

PMD地震計はダイナミックレンジが狭いために、記録は振り切れてしまったが、CMG1Tでは振り切れずに記録された。また、CMG1Tの記録は、STS-1地震計の記録とよい一致を示した。 設置から約半年経たが、現在ではセメントの固化に伴う歪み変化は収束し、潮汐などの地殻変動も認めることができる。M2とO1の分潮比は理論値 1.65に対して1.62とよい一致を示した(98年11月29日から99年1月24日毎時のデータ)。 理論値との比較から最小デジタルカウントは3.26x10-12の歪みに相当する(理論値は気象庁上垣内氏の計算による東京湾の値)。 今後は,より条件のよいデータによる計算を進め、設置された状態での歪み計の地面とのカップリング及び感度の決定、地震による歪み変化などの定量的な計測、地震計により 推測されたモーメントからの理論的歪み変化との比較などを行い、 システムの性能を詳細に調査する予定である。

2)ポータブル広帯域海底地震計を用いた機動観測
これまでにセンサーにPMD社PMD2023-WBを用いて、従来の設置回収方法を踏襲した海底地震計を開発して、観測を行ってきた。 この地震計は観測帯域0.0033- 20 Hzであり、 従来日本の研究グループで用いられてきた17インチガラス球に地震計及び記録計を納めた自由落下・自己浮上型海底地震計のセンサ部分をPMDセンサに交換したものである。 PMD2023は5度程度以内の傾斜に関わらず動作するため、特にジンバル機構でPMD2023を支持することはせず、ガラス球に直接接着固定している。 地震計の他には、PMD2023の動作状況を確認するための傾斜計、方位計、温度計を搭載し、観測期間の最初に計測を行う。9年度までに行った観測では、観測期間が一ヶ月程度と短く、記録される遠地地震の数は数個から数十個と少なかった。 そこで、1つの海底地震計に2台の記録器を併用して記録期間の延長を試みた。また、さらに長期間の記録を得るために、地震計の回収設置を同一の地点で行う繰り返し観測を実施した。 観測は室戸沖南海トラフ域で、1998年6月に地震計の設置、8月に回収と同一地点への再設置、10月に回収を行った。この観測期間中に得られた記録の例として南米チリで発生した地震の記録を、図3に示す。
図3 室戸沖に展開した広帯域海底地震計で観測した遠地地震波形。2つの観測点について、水平動(X,Y)垂直動(Z)を示す。地震はチリ沖のMs 6.6のもの。 震央距離は約159度。A) 長周期(10秒周期)の実体波をIASP91モデルの理論走時とともに示す。B) 同じ地震の表面波部分。ラブ波とレイリー波が水平動と垂直動に違ったかたちで現れている様子がよくわかる。

この地震のマグニチュードは6.6であるが、実体波、表面波ともに十分なS/N 比で記録されている。この小型広帯域海底地震計および観測手法により、海底でのコアフェーズ、表面波の記録が十分可能であることが示され、今後は記録の蓄積がより重要になってくると考えられる。