海洋底観測

塩原肇・山野誠

海洋底観測とは?

地球表面の2/3を占める海域は地球内部の活動を知るための重要な場所ですが、今でも 海底での各種の観測には開拓的要素が残っています。そのためこの研究は、新たな知見を 得るための新規の機器開発・実際の観測・解析方法の開発など、総合的な視点での 研究を自ら行なえる希少な分野です。

海半球観測研究センターでは、西太平洋に「海半球ネットワーク」の観測網を構築するため、 陸から遠くはなれた海底で長期間観測を行なえる広帯域海底地震計・電磁力計を開発し 設置します。また、GPSを利用した海底地殻変動観測技術・海底で長期間利用可能な電源・ 水中音響通信と人工衛星を利用したデータ転送の開発なども行なっています。


具体的な研究項目

長期観測型海底地震計の開発と試験観測

海底での長期間連続の地震観測は世界的にも事例が大変少ないものです。日本ではこれまで 2ヶ月程度の海底地震観測を多数行っており、そのノウハウを元に1年間連続観測を可能な 自己浮上型海底地震計(写真1)を開発し、東太平洋海膨で試験観測(1997/8〜1998/9)を 実施しました。熱水活動の盛んな海嶺中軸部に設置しましたが、腐食もなく無事回収されて います。


写真1:長期海底地震計の外観

広帯域海底地震計の開発

「海半球ネットワーク」の研究で必要な地震動をきろくするには、数秒以上の長い周期の 信号を捉える広帯域地震計を使う必要があります。しかし、海底での広帯域地震観測は 世界的にも事例がないに等しい未踏の領域です。その試験的観測を1998年に相模湾で 実施しています。このときには海洋科学技術センターの協力により潜水挺「しんかい2000」 のサポート(写真2)により設置を行ないました。

今年の8月には、北西太平洋に潜水挺のサポートなしにより長期広帯域海底地震計の設置を 実施します。下記の来年の航海の際に自己浮上させて回収する予定です。


写真2:広帯域海底地震計が着底した状態(「しんかい2000」より撮影)

孔内計測型地震計の開発と設置

国際深海掘削計画による今年・来年の航海で「海半球ネットワーク計画」による、 掘削孔内に設置する広帯域海底地震計・歪み計を開発しています。今年(7月)は 三陸沖・来年は北西太平洋に設置します。データは当面、深海潜水挺で回収しますが、 将来は既存の海底光ケーブルに接続しオンライン化する計画があります。

長期海底観測用電源の開発

海底で長期間観測装置を動作させるためには、海底での水圧と無関係で周囲に多量に ある海水を利用可能な電源があると便利です。そこで、石油掘削井等で利用されている 「海水電池」と呼ばれる電源を深海底で応用させる実験を行っており、上述の孔内計測型 海底地震計で近々実用化されます。

温度長期計測装置の開発

新しい観測装置として、海底堆積物中の温度・間隙水圧を1年程度にわたり計測する機器の 開発を行なっています。その目的は、1)海底水温が大きく変動する水深の浅い海域で、 水温変動の影響を補正して地殻熱流量を求めること、2)海底拡大軸付近の熱水活動や、 沈み込みに伴う冷湧水活動の時間変動を調べること、です。温度計測に関してはほぼ 実用化の見通しが立ち、現在は間隙水圧を同時に計測する機器の開発を進めています。