領域設定の背景
(1) 地震・火山現象を引き起こすプレート運動は、マントル全体で起きている対流(=マントル対流)の表層の動きに他ならない。マントル対流の最大の特徴は、対流の湧き出し口がプレートの生産域(中央海嶺)と一致しない一方で、沈み込み口はプレートの消滅域(海溝)と一致する点にある。即ち、下降流はプレートの沈み込みとして地表から地球深部へと追跡可能なのである。従ってマントル対流の実体解明には、沈み込むスラブ(=プレートのマントル中に沈み込んだ部分)に着目して下降流の側からマントル対流の全体像に迫るアプローチが有効と考えられる。沈み込むスラブに関して、日本は地震波トモグラフィーやスラブ物質の高温高圧実験において世界をリードする成果を得ている。また深部スラブの鮮明なイメージングには海底地球物理観測が欠かせないが、その技術開発において日本は世界をリードしている。今やこれら実績を1つの領域研究へと結集し、下降流の側からマントル対流の全容に迫る機は熟している。
(2) 平成8~13年度の科研費創成的基礎研究(新プログラム)「海半球ネットワーク計画―地球内部を覗く新しい目―」により、最大のプレート沈み込み帯である西太平洋域に、世界に類のない「海底観測点を含む海域総合地球物理ネットワーク」が完成した。併せてより高分解能なイメージングを可能にする海底長期地震・電磁気観測システムが開発実用化された。一方で同計画によりプレート沈み込みの実態解明が進み、マントル遷移層(=上部・下部マントル境界付近:深さ400-1000km)に滞留するスラブ(スタングナントスラブ)の一般的存在が明らかになった。またスタグナントスラブが、マントル対流の非定常性と表層プレート運動の歴史とを統一的に理解する1つの鍵であるとの認識が生まれた。
(3) 一方、平成12~14年度特定領域研究「超高圧地球科学:プレート・マントル相互作用の超高圧物質科学」により、下部マントル・コアに相当する圧力発生技術や放射光利用のその場観察技術の開発が格段に進み、その結果、マントル物質・コア物質の趙高圧下における相転移・溶融・脱水反応などに関して大きな成果が得られた。また平成10~14年度振興調整費「高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究」により、世界最速コンピューター「地球シミュレーター」を用いた計算機固体地球科学の展開が始まり、その一環として地球シミュレーターの能力を最大限生かしたマントル対流シミュレーションの準備が進みつつある。海半球計画の成果にこれら2つのプロジェクト研究の成果を持ち込むことにより、観測・実験・計算機科学を結集した新たな研究展開が可能となりつつある。

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