領域設定の必要性及び緊急性
必要性:スタグナントスラブの発見とその一般的存在の検証は、地震波データの解析によるものでいわば観測の成果である。しかし、沈み込むスラブが遷移層に滞留することを示唆したのは、上部・下部マントル境界における相分解のClapeyron slopeが負であるとする高温高圧実験の結果であり、 実際に負のClapeyron slopeによってマントル下降流が遷移層に淀んだり崩落的落下しうることを示したのは、マントル対流の計算機シミュレーションである。現実のスタグナントスラブは計算機シミュレーションが示すよりもずっと豊かな多様性を持つが、ここで教訓的なのは、観測と実験と計算機シミュレーションの融合によって初めて観測結果の意義が明らかになったことである。この教訓に学び、観測・実験・計算機科学の3分野が結集しそれぞれで開発・準備してきた世界最先端の技術や手法を共通の課題のために投入し、個別あるいは外国ではなしえないマントルダイナミクス研究を開始することが求められる。このような体制を全国規模で展開できるのは特定領域研究をおいてほかにない。
緊急性:新プロ「海半球計画」により、マントルダイナミクス論への新しい切り込み口「スタグナントスラブ」が確保された。また同計画により日本のグローバル観測技術は世界トップクラスに達し、特に固定観測網を補完する海底機動観測装置の開発実用化により、ターゲットを絞った長期の高分解能観測が可能となった。特定「超高圧物質科学」によりもともと世界をリードしていたこの分野はその立場を一層強固なものとし、今後は観測と直接比較しうる物性測定へ歩を進めようとしている。更に振興調整費「地殻変動予測」により、世界最速コンピューター「地球シミュレータ」の能力をふるに生かしたマントル対流シミュレーションの準備が進んだ。「スタグナントスラブ」をキーワードとして観測・実験・計算機シミュレーションの3分野が結集し、マントルダイナミクス論の新展開を図る機は今をおいて他にない。

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