特定領域研究「地球深部スラブ」 第3回研究シンポジウム
「深部スラブの物質科学とダイナミクス」における総合討論まとめ
-浮かび上がってきた問題点-
1.遷移層下半分に相当する温度・圧力でのマントル鉱物の弾性波速度直接測定によれば
  Pyroliteでは標準地球モデルよりも遅い。
  Piclogiteはなお遅い。MORB物質はもっと遅い。
  Hurtzburgiteは辛うじてモデルを説明するが、
  これも非弾性効果を考慮するとモデルより遅くなる。
  地震学的モデルと合う鉱物学的モデルは何?

2.水の1%増でVpの4%減は本当か?
  そうだとすると遷移層のVp変化は温度の300-400度変化ではなく
  含水率の0.2-0.4%変化で説明可能となるが、
  地震波速度がそこまで含水率に敏感か?
  これまでの地震波トモグラフィーモデルの温度による解釈は要注意?

3.高温での電気伝導度は水の含有量に無関係
  →高温域における水の役割は融点降下による部分溶融?
  →電気伝導度の正異常
  低温域における水の役割は直接的
  →水の含有量の大小
  →電気伝導度の正負異常

4.相転移に伴う結晶の細粒化・粘性低下:
  スラブ内オリビン系列では相転移スムーズ
  →細粒化による粘性低下重要
  スラブ海洋地殻ではガーネット系列の相転移が遅れる
  →細粒化による粘性低下重要でない?

5.水が粘性に及ぼす効果
  水が多い場合:スラブ内で海洋地殻が変形しやすい
  脱水すると:海洋地殻部分が相対的に固くなる。
  脱水により形成されたスラブ上面のThin hydrous layerは変形しやすい。

6.下部マントルの高粘性、相転移に伴う浮力、海溝の後退、細粒化などは、
  すべて上部マントル最下部でのスラブを低角にするセンスに働くが、
  何らかの別の要因で上部マントル最下部でのスラブのdip angleが小さくなったとしても、
  スラブを横たわらせることができる。
  → 横たわったあとの崩落シミュレーションが未だ不十分?

7.下部マントルにおけるbroadなH-spin/L-spin転移、
  それに伴い深さと共に電気伝導度低下・弾性常数変化、流動性変化、熱伝導度変化?
  PPv相転移に伴う電気伝導度の大幅ジャンプ、それによるCMBの電磁気結合、
  CMB付近での電気伝導度の水平不均質は温度変化では生じない:
  下部マントルは単調でない、変化に富む存在。

8.海洋地殻からの脱水後、
  沈み込むスラブの上面40kmに沿って大量の水(0.5%)が深くまで入り込む。
  スラブ内で水が運ばれるのではない!
  スラブ上面にへばりついたウエッジマントルのThin Hydrous Layer

9.MORB-OIB系列の同位体異常のソースは2箇所:
  ウエッジマントル(スラブからの脱水と局部対流)と
  OIBソース(深部メルトに濃集した放射性元素の発熱→メルト上昇):
  HMU,EM2などの分類はナンセンス!

10.スラブ上面にへばりついたThin Hydrous Layerはどこまで追跡できる?
   現時点では深さ400kmまで確認(関東から西南日本にかけて)
   水の最大含有量比は Ol(α:β:γ:Pr)が 6:30:15:1、Gaが 3 なので、
   Thin Hydrous Layer中の水は遷移層に溜まるべき。観測証拠は?

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