研究計画・方法
研究代表者は全体の統括、および超高圧下でのスラブおよびマントル遷移層の主要鉱物相転移実験をおこなう。分担者である井上、山崎、桂、安東はそれぞれのこれまでの実験技術的バックグラウンドをもとに、高圧相の弾性波速度、密度、熱膨張率、電気伝導度、変形特性、等の精密測定をSPring-8の高圧地球科学ビームラインの大型マルチアンビル装置(SPEED-1500およびSPEED-MkII)を用いておこなう。特に海洋地殻物質およびマントル物質のいずれにおいても重要な高圧相である、メージャライトざくろ石に一つの焦点をあてる。まず、高温高圧下におけるメージャライトの安定領域を精密に決定するとともに、その良質な多結晶焼結体の合成おこなう。得られた試料を用いてマントル遷移層に対応する20GPa程度の圧力まで、これらの各種物性を測定する。なお、舟越は同ビームラインの責任者として放射光実験の光学系の改良と実験精度の向上をおこなうとともに、各分担者と協力してX線その場観察実験にあたる予定である。このようにして得られた高圧相の各種物性データに基づき、スラブの滞留過程を物質科学的に検討するとともに、地震学的観測データや数値シミュレーションの結果と対比させ、スラブのマントル遷移層付近での挙動を明らかにする。
 研究の初年度にはSPEED-MkIIにおいて試料部の観察のための高解像度CCDおよび高圧下弾性波測定用の機器類をSPring-8において整備し、X線回折その場観察と物性同時測定のための実験環境の整備をおこなう。また、旅費の大部分はSPring-8における実験のために使用し、SPEED関連の第1段アンビルや各分担者の実験用の第2段アンビル等に多額の消耗品を必要とする。さらに2名の研究支援者を採用し、主に高圧地球ビームラインおよび高圧装置の調整や維持管理、また放射光実験における補助業務に従事していただく予定である。
 海外共同研究者であるシカゴ大学・APSのWang博士は、高圧下での変形実験や放射光を利用した物性測定実験において世界をリードする研究成果をあげており、本研究課題の遂行においても重要な役割が期待される。APSは、SPring-8と並ぶ世界最大級の放射光実験施設であり、共同実験チームを組んでSPring-8における放射光実験をおこない、緊密な技術交流と高圧相の変形特性についての共同研究を展開する予定である。

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