研究計画・方法
 本研究では、滞留するスラブ内の諸過程とスラブと下部マントルとの化学的相互作用を解明することにより、スタグナントスラブの多様性、滞留したスラブのマントル深部への崩落の原因、そして崩落するスラブのダイナミクスを解明する。そのために、マントル遷移層から核マントル境界に至る条件のもとでの高圧相転移反応速度とそれへの水の影響、元素の拡散過程を解明し、含水マグマの密度と粘性などの諸物性を明らかにする。また、核マントル境界にいたる広い圧力領域において、高温高圧X線その場観察実験にもとづきスラブ物質の密度を決定し、崩落するスラブの浮力を明らかにする。さらに、地震学的情報と対比するために、ブリュアン散乱法を用いて、高温高圧下における弾性定数の測定を行う。
平成16年度
 高圧鉱物中の水素の拡散速度を明らかにし、これらの鉱物中の電気伝導度に対する水素(水)の影響を解明する。また、スラブで生じる様々な低温準安定相を明らかにし、それらの相転移速度を決定する。スプリングエイトにおいてスラブ物質の高圧高温下X線その場観察実験を精力的に行い、スラブ物質の鉱物組み合わせ、各鉱物の体積を下部マントル全域にわたって決定する。さらに合成された試料を回収し、分析透過電子顕微鏡により、各鉱物の化学組成を決定する。これらのデータからスラブ物質の密度を計算する。高圧実験のための試料部の微細加工を行うために、微細加工用レーザー及び放電加工機を導入する。分析透過電子顕微鏡用の試料の蒸着のために、薄膜蒸着装置を導入する。
平成17年度以降
 スラブ物質の密度決定や、スラブ内部での相転移速度の測定をさらに押し進め、核マントル境界までの条件での準安定相等も考慮したスラブの構成物質を解明する。また、水を含むマグマの密度、粘性などの物性を下部マントルの条件で明らかにする。平成18年度からはブリュアン散乱法を用いた弾性定数の測定を開始する。これまで培ってきたレーザー加熱法や抵抗加熱法の技術を活かし、高温高圧下での直接測定を目指す。また、マルチアンビルを用いて行われた相転移速度や拡散速度の測定を焼結体ダイヤモンドアンビル高圧装置と単結晶ダイヤモンドアンビル高圧装置を駆使して、下部マントル深部や核マントル境界に拡大する。

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