研 究 目 的
研究目的
 マントル対流を根源とする現在の地球のグローバルな活動は、マントル下降流の沈み込み、滞留、崩落等のプロセスによって大きく影響されている。沈み込むスラブの滞留と崩壊の過程は、一方向に冷却する地球の活動の歴史において、突発的な事件や変動のリズムを作り出すと考えられる。本計画研究では、これらの地球史上の出来事の原因である地球内部の熱/物質輸送に焦点をあて、マントル下降流の振る舞いが(1)プレート運動や対流モードの変動を通して地球の熱進化過程に与える影響、(2)沈み込み帯における火成活動、熱輸送や物質循環(特に水分布)、等に与える影響、(3)全マントル規模の熱輸送過程に与える影響、について数値シミュレーションを実施する。そしてその結果を、観測グループにより得られる沈み込み帯の詳細な力学構造や温度構造、高圧物性グループによる物性測定の結果等と結合させることにより、現在の地球深部の物性と状態を特定する。また、(4)熱/組成分布の推定に有用な電気伝導度構造に着目し、3次元不均質電磁気構造場中を伝わる電磁場のシミュレーションにより、マントル対流場が観測データに如何に反映するかを明らかにする。(5)以上の個別モデルの解析から得られる諸量をパラメター化して(3)のグローバルモデルに組み込み、時間と共に変動する地球進化過程を復元することにより、マントル下降流の振る舞いが地球の熱的・物質的進化過程に与えてきた影響を解明する。
領域内での研究の有機的な結合により、新たな研究の創造が期待できる点
 これまでのマントルダイナミクスの研究の進展においては、観測、シミュレーション、高圧物性研究のそれぞれが重要な貢献をしてきたが、複雑な地球活動の各局面を研究する上で、それぞれの分野の重点的な興味の対象が必ずしも一致してはいなかった。本領域ではスタグナントスラブの実体解明に焦点をあて、それぞれの分野が結集することにより、各分野の研究成果を相互にかつ迅速にフィードバックすることを可能にし、マントルダイナミクス解明推進のための強力な研究体制を作り上げられることが期待できる。本計画研究(キ)はマントル下降流に伴う熱輸送、物質循環に焦点をあて、マントル下降流の滞留と崩落という力学過程の再現に焦点をあてた計画研究(ク)と協力して総合的なシミュレーションを実施すると共に、観測グループ(エ)によって得られる熱物質構造(電気伝導度)及び高圧グループ(オ)による高温高圧下での水の拡散係数、透水度、含水マグマの密度と粘性、熱・電気伝導度の測定結果、等を結び付ける役割を果たす。このような領域内での有機的な結合により、表面冷却によって生じるマントル下降流による地球全体の活動と進化の過程を解明するという目標に向け、地球科学の諸分野を結集した新しい研究分野の創成が期待される。
当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
 従来のマントル対流研究では、計算機能力の制約から、比較的簡単な特性を持つマントル物質による熱平衡状態での3次元対流モデルの研究が主流であり、マグマの発生や化学組成が変動する複雑な物質の挙動を取り入れ、かつ熱進化過程を考慮した3次元シミュレーションはこれまでに行われていない。本研究計画は、沈み込むスラブの滞留と崩落の過程がマントルの熱・物質輸送に与える影響に焦点をあて、まず沈み込み帯近傍での部分モデル、2次元地球熱進化モデルを用いて、スラブの挙動による熱・物質輸送の変動を明らかにし、マントルの物性、状態を明らかにした上で、それらをパラメター化して、上記の問題に取り組もうという点に特色がある。本領域全体の特色である観測グループ及び高圧実験グループと密接に協力した研究推進体制と、スラブの滞留と崩壊という力学過程の再現を目指したモデリンググループと両面からアプローチすることによって、スタグナントスラブの実体が解明されるとともに、マントル下降流が重要な役割を果たす地球進化の歴史が読み解かれることが期待される。
国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ
 マントル対流の研究では、90年代になって本研究計画参加者を中心とする日本の研究者やアメリカの研究者により、2次元及び3次元モデルによって、マントル下降流の遷移層での滞留やそれに続くマントル下部への間欠的な崩落が、示されている。しかし、現実に見られるスタグナントスラブの形状を自発的に再現するには至っておらず、またその実体や地球史における役割は解明されていない。本研究は世界最速の並列計算機である地球シミュレータの特性を最大限に利用し、かつ化学組成、部分溶融等の複雑な物質の挙動や熱や物質の移動を個別的に考慮に入れ、長期的な時間発展をシミュレーションしようとするものであり、マントル下降流の振る舞いの原因と、その地球進化過程における役割を解明する上では、最適な研究方法である。このようなスタグナントスラブに焦点をあてた総合的なシミュレーション研究は、国内外とも他には行われていない。

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