研 究 目 的
研究目的
 流体力学的手法に基づいて、粘性率の強い温度・深さ依存性、粘性ジャンプ、相転移、スラブの斜め沈み込み、スラブ内鉱物の細粒化などを考慮した、超高分解能の「部分3次元高度スラブ沈み込みモデル」(研究計画・方法の2参照)を構築する。このモデルを世界最速のスーパーコンピューターである地球シミュレータ上に移植し、カムチャッカ・千島・日本・伊豆・小笠原・マリアナに特化したスタグナントスラブの形成過程とその後の崩落のメカニズム、それらに伴うスラブの変形・応力場、鉱物物性の空間分布などを数値シミュレーションによって明らかにする。
領域内での研究の有機的な結合により、新たな研究の創造が期待できる点
 計画研究イで得られた高分解能地震波トモグラフィーの結果は、重要な観測事実であり、我々のグループがモデリングを行う際、説明しなければならない制約条件となる。計画研究オ、カのその場観察による弾性パラメターや鉱物の相変化、密度・レオロジーなどの正確な値は、我々の数値シミュレーションの重要な入力パラメターとなる。また、本計画研究クの大規模かつ高分解能の数値シミュレーションは、大規模スケールの問題(地震波トモグラフィー)と小規模スケールの問題(高温高圧実験)の間を結ぶ重要なツールでもある。このような有機的な結合により、上記の研究目的に掲げたような、世界でも前例のない、スタグナントスラブの力学的性質・特徴の解明が可能となる。さらに、研究計画キによるスタグナントスラブに関わる熱輸送・物質循環・熱進化過程の数値モデリングと連携することにより、スタグナントスラブの全容が明らかになる可能性は大いに高まる。
当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
 本研究においては、大枠では、従来全く独立に研究されてきた、地震・高温高圧グループと綿密な連携を図りながら、数値シミュレーションによって北西太平洋域に存在するスタグナントスラブの力学的性質・特徴を解明する点に大きな特色を有する。高分解能の部分3次元数値シミュレーションを行なうことにより、沈み込むスラブの形状といったマクロな現象と物質科学的なミクロのモデルの両方を取り扱うことができる。一方、本研究グループ内の独創的な点は、固体地球物理学と数値解析という全く異なる分野の研究者がタイアップし、最新の流体解析の成果を取り入れて、最近の計算機能力の飛躍的な発展に柔軟に対応できる数値シミュレーションコードを開発することにある。これにより、従来の枠組みでは実現できなかった大規模・高分解能・高精度の部分3次元高度スラブ沈み込みモデルの構築が可能となる。このような独自のアプローチによって、①の研究目的を達成することにより、上部・下部マントルの境界の果たす役割や地球の熱史の解明に大きな貢献をすることが期待される。
国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ
 国内外で開発されているマントル対流シミュレーションコードと比較して、本研究グループが開発してきた計算コードは、数学的に近似解の厳密解への収束性が保証されていることが大きな特長の1つである。 したがって、搬入誤差に対して強靭で、計算結果の信頼性が格段に優れた、大規模計算にも対応した、最先端のコードであると言える。温度依存の粘性を持つ熱対流問題に対するこのようなコードの開発は、国際的に見ても本研究グループが最初であり、今後その重要性が増していくことが予想される。また、現実的なパラメターの範囲で自己整合的にプレートの沈み込みを起こすことが可能なモデルでもあり、この点でも前例がない。本研究グループの計算コードを地球シミュレータ上で動作させることにより、世界でも類を見ないスタグナントスラブに対する大規模かつ高分解能の部分3次元数値シミュレーションが可能となる。

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