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平成11年度の研究成果

システム開発研究班(第3班)

[超伝導重力計観測]
 超伝導重力計(SG)観測の海外の観測点、オーストラリア、インドネシアの観測を継続している。このために、各観測点で液体ヘリウムの補充、観測計器の保守作業を行った。 また、第3の観測点として、北極Ny-Alesund(ニーオルセン、北緯79度)での観測を1999年9月に開始した。世界で最も北にあるSG観測点と言える。 日本のSG関係者は現在GGP-Japanネットワークと呼ばれる観測網を展開しているが、Ny-Alesundが立ち上がったことで、北極―赤道―南極を含むグローバルな観測網でのデータが得られるようになった (詳しくは、本ニュスレターの記事「GGP-Japanネットワーク ―北極・Ny-Alesundでの超伝導重力計観測始まる―」を参照)。

[海洋島電磁気観測]
 1999年9月にトンガにおける地磁気観測を開始した。観測装置の設置および今後の観測の実施は、トンガ王国国土測量資源省(Ministry or Lands, Survey and Natural Resouces)との協力による。 この機関はすでに「全地球ダイナミクス」の地震観測にも協力しており、我々の観測を行うにあたって気象研の神定氏らにお世話になった。
 トンガ・クリスマス(1999年8月)・ポナペ(2000年3月)の観測点においては、地磁気絶対測定を実施したが、トンガおよびポナペの測定には、気象庁地磁気観測所の大川氏および源氏の協力を得た。
 中国東北地方において、電話回線を利用した電位差変動の臨時観測を継続して行った。また、すでに観測で得られているデータを用いてネットワークMT法の解析を行った。 予備的な1次元解析では、上部マントルの70〜100 kmの深さに高電気伝導度層が見られるモデルが得られた。 中国側の共同研究者が独自にこれまでに行ったMT法探査の結果を参照して、表層の電気伝導度に拘束条件を与えることにより、モデルの信頼度を上げると共に、3次元解析なども行いつつある。
 観測候補地のうち南鳥島(マーカス島)については、手続などが完了せず予備観測のみ実施した。設置は次年度に行なう予定である。

[海底ケーブル電位差観測]
 2000年3月に、グアム観測点の測定システムを更新した。新しいシステムは、前年度に国内の観測点に導入したものと同様に、電話回線に接続してインターネットによってデータ転送が行えるものである。 また、研究室からログインしてシステムの動作状況をモニターすることも可能である。
 1999年9月に、グアム-ミッドウエイ間ケーブルの電位差が突然異常になった。グアム局のAT&T職員に調査を依頼したところ、グアムから100〜200 kmの海底でケーブルが海水にショートしているらしいことが判明した。 さらに、米国のグループが測定しているハワイ-ミッドウエイ間ケーブルでも、同様の異常が2000年1月に発生し、ショートしている箇所はハワイ近海であることがわかった。 これらのデータを生かすためにはミッドウエイに測定システムを設置する必要があり、その方法を米国側と共に検討している。
[海底電磁気観測]
 11年度は、まず過去3カ年かけて開発した「海底電磁気観測所」2号機を、東京大学海洋研究所「白鳳丸」のKH99-3次航海の第2レグ(シアトル→東京、1999年7月29日〜8月24日)で北西太平洋に設置した。 図1に敷設時の様子を示す。
図1 海底電磁気観測所の敷設の様子
敷設点の位置は、北緯41度06.99分、東経159度56.09分(水深5581 m)、ODPによる掘削候補地点2点の中点である。同点近傍には、広帯域海底長期地震計1台も投入された。
 また、これまでの機器開発・試験観測の成果を踏まえて、3号機の製作も行った。主な変更点は、(1)これまで独立していたFOGジャイロも他のセンサーと一括制御できるようにした、 (2)音響モデムのロングレンジ化、 (3) センサーメモリの増強、 である。(1)により、音響モデムを介して任意の時に複数回、海底での方位と姿勢の測定が可能になった。(2)により、水深6000 mの深海底でも安定した音響通信が可能になるものと期待される。 ただし、転送速度は依然として300ボー程度である。(3) については、フラッシュメモリ化により1400日を越える8成分毎分値が記録できるようになった。残る主な問題は電源であり、海水電池の活用が次の課題である。

[海底地震観測]
 海半球ネットワーク計画の初年次より、海底設置型広帯域地震計の開発を、要素毎に陸上および海域での試験を繰り返しながら進めてきた。ようやく各要素の開発が終了したため、11年度は海域での総合試験、並びに長期連続観測を実施した。
 1999年6月に油壺湾に測器を設置し、自己浮上による回収試験、データ通信試験、記録試験等の総合試験を行った。油壺で一応の満足すべき結果が得られたので、1999年8月には、上記の白鳳丸航海により孔内地震観測点であるWP-2掘削予定点(北西太平洋)近くに設置し、約10ヶ月の長期連続観測を開始した。 また、三陸沖の海底孔内地球物理観測点JT-1孔近くに設置しての孔内地震計との比較観測を行った。
 11年度の各種試験を通じて、海底設置型広帯域地震計の開発は、観測で得られる地震波形データを解析しての評価および高度化のフェーズに入ったと言える。 現在の仕様の概略を表1に示した。

表1:海底設置型広帯域地震計の開発
センサー英国グラルプ社CMG−1T(360-0.05秒)
サンプリング22ビット 128Hzサンプリング
記録装置SCSI接続HDDを8台まで接続可能、順次切り替えにより連続記録(現在は6ギガバイトHDDを使用して48ギガバイトの総記録容量)
耐圧容器外径65cmのチタン球
アンカー切り離し機構強制電触方式(現在は、自己浮上部とアンカーを連結する0.8mm厚のチタン板を電触)
トランスボンダーの機能距離測定、アンカー切り離しコマンド、データスルー・モード
寸法120cm×120cm×高さ75cm
重量空中230kg、水中60kg

今後は、センサーを海底に埋設するタイプの広帯域地震計の開発を進める予定である。
[海底熱流量・間隙水圧長期観測]
 海底水温の時間変動が大きい浅海域において地殻熱流量を求めることを主な目的として、堆積物中の温度プロファイルを長期計測する装置の開発を進めてきた。これを用いた本格的な長期連続観測として、1999年4月に東海沖の水深約1200 mの地点に装置を設置し、同年9月に音響切離によりデータ記録部を回収した。 記録部と温度プローブを接続する部分の水漏れにより、温度記録が得られたのは最初の1か月のみであったが、この間の温度データは非常に良質のものであった。この接続部分については、その後改良を行っており、2000年には再度長期計測を実施する予定である。
 また、堆積物中の間隙水の移動を捉えることを目指し、温度プロファイルに加えて間隙水圧を長期計測する装置の開発も行っている。間隙水圧は、海底面の水圧と堆積物中の圧力の差として測定するため、堆積物中の圧力を差圧センサに導く必要がある。 11年度は、このための圧力プローブを製作し、実際に海底堆積物に突き刺しての計測試験(約15時間)を行った (図2)。
図2 海底温度間隙水圧長期計測装置の外観
その結果、プローブの貫入による圧力擾乱が減衰する過程を記録することができたが、回収時にプローブを切り離す機構にやや問題があることが判明したため、この点の改善を進めている。
[海底地殻変動観測]
 最近のGPS観測等により、プレートは全体としては一定の速度で動いているが、プレート境界に近づくほど間欠的な動きをすることが分かってきた。海底のプレート境界近傍における動きを捉えるには海底地殻変動観測が重要であり、このための観測システムの開発を進めている。
 水平変動を観測するための基礎となる技術は海中音響測距である。海底間の水平測距では、1-2 kmの基線長で1 cm程度の分解能の測距が可能になってきている。200-300 kmの長基線の変動については、海上キネマティックGPS測位と音響測距を組み合わせた測位システムの開発を進めており、12年度にはハワイ沖の深海底で試験観測を行い、その後三陸沖日本海溝に設置する予定である。
 鉛直変動の検出のためには、海底における圧力・重力の観測システムの開発を進めている。この両方を観測することにより、海洋の変動と海底の変動を分離できることが期待される。約2km離して設置した2台の圧力計の差圧をみると、数cmの相対的な鉛直変動を検出することができそうである。海底重力計の観測データは、10マイクロガル程度の測定が可能であることを示している。
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