平成13年度の研究計画
海洋島観測研究班(第1班)
[広帯域地震観測班]
1)無停電装置の改修
海洋島地震観測システムで使用している無停電装置は蓄電池に車のバッテリーを使った、特殊なタイプである。このため設計上一部に無理があり、数分の停電では問題がないが、長期停電の後、回復しない場合がある。電子回路的な問題でもあり、順次この部分を改修する。
2)定常的な保守点検
大田(韓国)の観測点など1年間何の問題もなく観測できた観測点もある。それでもMOドライバーは稼働し続けているので、1年程度で交換する必要がある。また、地震計の状態をチェックする必要もあり、どの観測点も1度は点検を必要とする。特に今年はプロジェクトの最終年でもあり、今後の観測維持体制について現地協力者との打ち合わせが重要である。
[GPS観測班]
13年度も西太平洋、極東域においてGPSの連続観測を維持し、臨時観測を実施する。とりわけ、インドネシア・フィリピン国境域でのGPS繰り返し観測から、ユーラシアプレートとスンダブロックの動きを解明し、フィリピン海プレートとユーラシアプレート境界域のテクトニクスなどを考察する。また、極東域ではカムチャッカ半島におけるGPS連続観測データを整理し、太平洋プレートと北米プレート、オホーツクプレートのテクトニクスを議論する。
海洋底観測研究班(第2班)
海底掘削孔を利用した観測は、平成11年度に三陸沖日本海溝陸側斜面に2観測点(JT-1、JT-2)を、12年度に北西太平洋海盆(WP-2)、西フィリピン海盆(WP-1)に2観測点を、国際深海掘削計画の掘削船により設置し、孔内観測網の設置が完了した。13年度は、JT-1及びJT-2観測点における地震・地殻変動観測を継続するともに、現在予備観測を行っているWP-2観測点の本観測の開始、WP-1観測点のシステム起動及び観測開始を予定している。また、JT-1及びJT-2観測点については、海底部装置の更新を行い、より高度な観測に移行する。JT-1及びJT-2観測点のメインテナンスは、海洋科学技術センター無人潜水艇「ハイパードルフィン」、「かいこう」を用いて、13年度中に計4回行う予定である。また、WP-2観測点の本観測開始は13年7月から8月にかけて、WP-1観測点のシステム起動と観測開始は13年11月に、海洋科学技術センター無人潜水艇「かいこう」を用いて行う。
海底孔内観測網設置完了を受けて、海域にさらに密な地震観測網を構築するために、既設の地震観測点の間を埋めるように海底設置型広帯域地震計の設置を計画している。設置予定点は、日本列島とWP-1およびWP-2の中間地点、及びマリアナ諸島はるか沖太平洋海盆の3点である。
11年度から12年度にかけて行ったフィリピン海における海底設置型稍広帯域地震計と海底設置型電位差磁力計を用いたアレイ観測と同様な手法での集中的な観測を、13年度にマリアナ島弧域において実施するべく、関係機関との調整を行っている。この観測により、マリアナ島弧全域の詳細な上部マントル・リソスフェアの構造が明らかになると期待される。
システム開発研究班(第3班)
[超伝導重力計観測]
1)13年度の計画
12年度同様、海外3観測点での液体ヘリウムの補充、また超伝導重力計(SG)の保守作業(冷凍機のオーバーホールを含む)を行う。相対重力計であるSGの観測では、重力計のスケールファクター(感度)とゼロ点の検定がデータを解釈する上で不可欠である。従来、国外、国内の機関に依頼し検定を行って来た。13年度も、国内のSGについては、京都大学の絶対重力計(FG5)が各点を巡回して検定作業を実施する予定になっている。ニーオルセンについては、ドイツZDFに実施を依頼している。キャンベラについては、国土地理院に打診している。関連する事項として、海水面変動と重力変化の関係を精密に調べるため、三陸沖での海底圧力計の観測、またそのデータと衛星高度計データとの比較を計画している。
2)観測網の維持
SG観測網で得られたデータの解析結果は、重力計が年周期といった長い周期の重力変化も確実に捉えていることを示している。バンドンのSGでは、信号レベルの大きな地下水位と重力変化との対応が先ず調べられたが、海洋における振動、例えばENSO(エルニーニョ南方振動)による重力変化が捉えられる可能性がある。また北極ニーオルソンではヨーロッパの研究者によりVLBI(超長基線電波干渉計)による地面の上下変動と重力絶対測定との比較がこの3年ほど行われているが、両者は大変に調和的な変化を示しており、そこでのSGの連続データは、後氷河期の地面変動と重力変化との関係を研究する上で貴重なデータになると期待されている。
このように、海半球ネットワーク計画で構築したSG国際観測網は、短周期・長周期における重力変化の実測値から、質量移動をキーワードに大気・海洋と固体地球の相互作用や短周期、長周期の重力変動を研究する上での貴重なデータを、また重力観測の新たな応用の道を開くデータを提供していると言える。海半球プロジェクトは13年度が最後の年に当たっているが、上記に挙げた研究を進める上でも、観測が継続されることが強く望まれる。
[海洋島電磁気観測]
既設の8カ所で地磁気観測を継続する。
[海底ケーブル電位差観測]
これまでの電位差観測を継続する。また、太平洋の広域な電気伝導度を求める研究と、海流の影響を正しく見積もる研究を、ウッズホール海洋研究所と共同で行う。
[海底地震観測]
12年度に引き続き底層流の影響を受けにくい海底地震計の構造を、埋設方式だけでなく検討し、実際の試験観測を開始する。また、新規導入した広帯域センサー(Guralp社、CMG-3T)に対応した海底地震計システムの改良を図り、機動的アレー観測をより大規模に展開できる体勢を整える。
[海底地殻変動観測]
三陸沖日本海溝の海側斜面、及び陸側斜面において、GPS/音響精密測位観測を開始する(それぞれの水深とGPSの基線長は、約6000 mと250 km、及び約1600 mと100 km)。また陸側斜面では、群列圧力観測も開始する。
[海底電磁気観測]
インド洋アデン湾航海で実績を作った3号機を、海洋科学技術センターの「みらい」MR01K04航海の第1レグ(関根浜→ダッチハーバー、2001年7月24日〜8月27日)で北西太平洋に再度敷設、1年遅れながら海底電磁気分野も北西太平洋の海半球ネットワークに参画する予定である。
[海底熱流量・間隙水圧長期観測]
12年度に海底に設置した、小型の温度長期計測装置、間隙水圧計測装置を回収し、長期間(数か月)にわたる計測データの安定性を調べる。
既に長期間の計測に成功している大型の温度長期計測装置(自己浮上方式)、及び潜水船により設置・回収する型の温度計測装置を、南海トラフ付加体に設置し、浅海域での熱流量測定、冷湧水活動の時間変動の研究を行う。
データ処理解析研究班(第4班)
平成12年度には、地震観測・GPS観測・超伝導重力観測・電磁気観測のデータを、これまで建設してきたデータセンターに統合し、統一的な公開システムを作り、海半球ネットワークとして完成した。延長年度である今年度はこのシステムを海底観測データやアレー観測点データも取り組んだシステムにまで拡張する。また、他機関観測網とのネットワーク化を図る。
「フィリピン海ー中国大陸横断機動観測」のデータを観測班と共同で解析し、マントルの地震学的電磁気学的構造を求めて、海底長期アレー観測の威力をデモンストレーションする。これまで進めてきた地球内部構造に関する地震学的研究を総合し、マントル遷移層の構造とそれがマントル対流に果たす役割を明らかにする。
常時地球自由振動の理論的・解析的研究をさらに進め、振動の励起源を明らかにするとともに、大気常時自由振動の存在を確認する観測実験の理論的準備を行う。
具体的には、
1)海半球海洋島地震観測網、超伝導重力観測網、GPS観測網、電磁気観測網にさらに海底観測を併せて海半球ネットワークデータセンターとして統合。他機関とのネットワーク化。
2)波形インバージョンによる3次元地球構造の決定、マントル対流解明の鍵となるマントル不連続層微細構造の確立とホットスポット活動の下のマントル構造異常の検出。
3)西太平洋地球表層運動およびマントル対流下降流の実体を解明。
4)非球対称電気伝導度分布の推定および地球磁場の成因の解明。
5)固体地球ー大気・海洋系を1つのシステムとみなす常時地球自由振動論のさらなる展開と大気常時自由振動検出のための理論的準備。
総括班
平成13年度は計画終了年度にあたるため、各班で進めてきた観測網建設を統合し、1つの海半球ネットワークとして機能させることが重要となる。延長年度中に海底観測点の設置が完了し、文字通り海陸をカバーする世界初の海域総合地球物理観測網ができることになる。総括班はこの観測網が実際に機能するよう連絡調整をはかる。また前年度のフィリピン海横断海底観測の成果をいくつかの論文にまとめて学術誌に発表する。延長年度以降もネットワークが存続できるよう、防災科学技術研究所、固体地球統合フロンティア研究所(IFREE)との連携を進める。また総合成果報告書を作成する。
具体的には、
1)総括班会議を年2回開催し、13年度の活動とネットワーク運営のために必要な措置を行う。
2)総括班事務局においてニュースレターの発行、ホームページによる情報公開と情報交換。
3)第5回「海半球ネットワーク」シンポジウムを平成13年6月に開催する。
4)計画全体の総合成果報告書を刊行する。
5)「フィリピン海ー中国大陸横断」長期臨時観測計画のデータ解析を統括。
6)海半球ネットワーク観測点目録(英文および和文)の発行。
7)海底観測点まで含めて全OHP観測点を1つの総合的地球物理観測網にまとめあげるための調整連絡。
8)次年度以降のネットワークの存続に向けて、防災科学技術研究所、固体地球統合フロンティア研究所(IFREE)との連携強化。