はじめに
深尾良夫(東京大学地震研究所)
平成12年度完成を目指して建設してきた海半球ネットワークは、海洋島地震観測網16点(当初予定15点)、海洋島電磁気観測網8点(当初予定6点)、海洋島GPS観測網28点(当初予定18点)、超伝導重力計アレー4点(当初予定3点)、海底電位差ケーブル7本(当初予定6本)、と当初予定を超えて観測点を建設することができました。またこうした観測網を補完する長期(9ヶ月)アレー地震・電磁気観測も12年度に行われました。これはマリアナ海溝からフィリピン海を横断し琉球海溝を横切って中国大陸に達する長大な測線で、中国における地震・電磁気観測は今も継続して行われています。こうした観測には、海半球ネットワーク計画で開発してきた、広帯域海底地震観測システム、海底電磁気観測システム、陸域機動地震観測システムが活かされました。
データセンターではネットワークから送られてきたデータの編集公開システムを整備し、全世界にデータを公開しつつあります。またNINJAと呼ぶ新しいネットワークデータ流通システムを開発しました。これはユーザーが、CD-ROM1枚で自分のパソコンから複数の観測網のデータを、それぞれの観測網のデータ公開法の違いや観測点変更を一切気にせずに入手できるという優れものです。現在は、海半球ネットワーク(OHP)地震観測網、IRIS地震観測網、台湾広帯域地震観測網が1つのネットワークとして機能しています。研究成果は多岐に渡りますが、地震学関係では、「常時自由振動現象の発見とそれに基づく大気・固体地球系自由振動論の展開」、「マントル遷移層の微細構造解明と環太平洋におけるスタグナントスラブの検証及びそれらに基づくマントルダイナミクス論の展開」、電磁気学関係では「マントル最下層の構造不均質性とコア起源の磁場との相互作用の解明及びそれに基づく地磁気成因論の展開」、測地学関係では「西太平洋―東アジア地域のプレートの運動の詳細解明とそれに基づくプレートダイナミクス論の展開」などを、主な柱としてあげることができます。
海半球ネットワークの大きな目玉である海底観測点に関しては、ODP計画にのっとって三陸沖と北西太平洋に孔内計測観測点が設置され、それと平行して海底設置型の広帯域地震観測も始まりました。北西太平洋には海底電磁気観測所も設置されました。しかし、3番目の孔内観測点であるフィリピン海(沖ノ鳥島沖)観測点については、ODP計画による掘削が平成13年3月末から4月末と決まり器械の設置は更にそのあととなるため、当初予定の12年度中の建設完了は不可能となりました。この事情は、科研費審査特別委員会並びに文部省当局の理解を得る所となり、海半球ネットワーク計画は13年度末まで1年間の延長が認められました。幸い、この3番目の海底観測点は成功裏に設置が完了し、13年11月に無人潜水艇により起動する予定です。
海半球グループでは、こうした成果をまとめて世に発表し、また関連する話題を世界の第一線の研究者が議論し今後の方向を探ることを目的として、平成13年1月21日から27日までION (International Ocean Network)との共催で国際シンポジウムを開催しました。シンポジウムには外国人68人、日本人90人が参加し、非常な盛況でした。中には、自分の国に戻った後、「自分は数え切れないほど国際会議に出席しているが、あんなに素晴らしかった会議は初めてだ」とわざわざメイルをよこした研究者もいました。会議をコーディネートした川勝均氏の元には、こうしたメイルがたくさん寄せられたそうです。会議の詳しい報告は、本ニュースレターを御覧下さい。
このように、海半球ネットワークは世界初の「海底を含めた西太平洋域総合地球物理観測網」として完成に向かいつつあります。また、その中から特筆すべき成果も続々生まれつつあります。今後の課題はこのネットワークを如何に維持改良し研究に役立てていくかです。この点に関しては、国立研究機関を中心として平成12年度に設置が終了したスーパープルームネットワークとの統合、平成13年度から発足する固体地球統合フロンティア計画との共同、東京大学地震研究所を中心とした新たなプロジェクトの立ち上げ、などの検討が進みつつあります。今後とも皆様の御協力と御支援をお願いする次第です。