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フィリピン海横断測線での長期海底地震・電磁気機動観測

(続き)

[地震データと解析]
 PDE地震カタログから選んだ震央距離70度以内・Mb 5.5以上の地震は、30-100mHzの帯域で充分なS/Nで記録されていることを確認した。その多くは浅い地震であるが、伊豆マリアナやフィジーの深発地震、一部のアラスカでの地震などの注目すべきイベントも捉えられていることがわかった。本観測では、エアガンの直達波、海底の堆積層・基盤境界でのPS変換波を用いて、内蔵した磁気コンパスの値も参考とし、信頼できる水平動センサーの方位を決定した。また、前述のように海底面で傾斜したことによる上下動成分の補正も行った。
 図5はトンガで起きた地震を陸上観測点も含めて表示したレコードセクションである。PHS3の波形が一部で異常なのは前述の理由による。個体差の大きいセンサー特性を補正した波形で比較すると、LTOBSのは海洋島であるPALUとは大差無いように見えるが、初動以後の後続波での振幅が陸上観測点よりも大きい傾向がある。しかし、北西太平洋の広帯域海底地震観測点(NWPAC1)では陸上観測点と差が見られないので、本測線下の地下構造との本質的な違いを反映している可能性はあると思われる。


図5 陸上観測点と海底地震計アレーで捉えたトンガの地震波形。センサー固有の特性を除いた上下動記録で振幅は各トレース毎に最大振幅で正規化した。iasp91の構造による理論走時(Crotwell et al., 1999)を太線で重ねている。

 暫定的に進めたレイリー波の分散曲線の解析結果を図6に示す。解析上の推定誤差が大きいという問題はあるが、PHS5とPHS13の波形を相互相関し群速度を求めた(Woods et al., 1991)。古典的とも言える同地域で求められたARC-1(Kanamori and Abe, 1968)に対し、本解析の結果は太平洋プレートの若い海盆でのもの(Mitchell and Yu, 1980)に近い。
 今後は観測データの解析を、レシーバー関数・表面波/実体波トモグラフィーなど複数の手法で進めていく計画である。

図6 レイリー波の分散曲線の解析例。解析値の誤差は大きいが、過去に得られたフィリピン海での結果であるARC-1よりも太平洋プレートの若い海盆での値に近い結果が出ている。


[電磁気データと解析]
 解析は、次の手順によっておこなった。まず、データのドリフトを、約4日間程度の区間毎に3次曲線をあてはめることで除いた。OBEMは自由落下で設置してあるため、磁場データの絶対値と傾斜計のデータを使って、各成分のデータを地磁気による南北、東西成分と鉛直成分に変換した。その結果を図7に示した。磁場のデータは、非常に高品質であるが、電場のデータには、スパイク状のノイズが多くみられる。それでも、磁気嵐による電磁場変動は顕著にみられる。磁場水平2成分から電場水平2成分へのトランスファー関数であるMTインピーダンスを、ロバスト・リモート・リファレンス法(Chave and Thomson, 1989)により求めた。この結果のエラーバーは、すべてのデータにおいて、周期が600秒から数万秒の間で小さい。磁場とこのMTインピーダンス(Z)から推定される電場成分と観測値そのものとのコヒーレンスは、Ey成分では比較的高いがEx成分では低い。したがって、Ey成分に関わるMTインピーダンスのZyx成分を使って、電気伝導度1次元構造を推定した。この推定には、周期が600秒から20000秒のMTインピーダンスを使って、滑らかな構造変化を与えるオッカム・インバージョン手法(Constable et al., 1987)を用いた。

図7 OBEMで観測された磁場(左)及び電場(右)。添字のx,y,zは南北、東西、鉛直成分を示す。144日目と150日目に大きな磁気嵐が見られる。

 解析により得られた1次元の電気伝導度構造(図8)は予備的な結果であるが、次の点に特徴がみられる。1)古い地殻年代をもつ海底下では、低い電気伝導度をもつ。
2)マリアナトラフの拡大軸下の電気伝導度は異常に低い。
 電気伝導度は、OBEM4, 2, 5, 6, 1の順番に低くなっている。OBEM1を除いて、この順番は地殻年代の順番である。OBEM4は若い海洋性地殻の上に位置し、OBEM2, 5, 6は、島弧の地殻でありこの順に生成年代が古い。OBEM1は、マリアナトラフの拡大軸の近くに位置し、電気伝導度が異常に低い。MELT実験がおこなわれた南緯17度付近の東太平洋中央海膨やタヒチ島付近でも、低い電気伝導度を持つマントルの存在が報告されている(Evans et al., 1999、Nolasco et al., 1998)。拡大軸やホットスポット下の低い電気伝導度は一般的な特徴で、メルトの抜け残りを見ているのかもしれない。

図8 個々のOBEMデータから計算された1次元電気伝導度構造モデル。

 今後のアプローチとして、次のようなことを考えている。
1)スパイクノイズの除去をていねいにおこない、より信頼度の高いMTインピーダンスを得る。
2) Baba and Seama(2001)の手法を使って海底地形の影響を考慮したうえで、より信頼性の高い電気伝導度構造を見積もる。
3)観測点の間隔が密な調査を新たにおこなう。

[まとめ]
 最終的には地震学及び電磁気学的モデルの融合を図り、より確からしい西太平洋領域のマントル構造モデルを構築する予定である。また、この測線下の構造はフィリピン海のテクトニックな変遷の影響を強く受けているはずであり、縁海の変遷メカニズムを理解するうえで重要な鍵となるはずである。

[参考文献]
・ Baba, K., and Seama, N., A new technique for the incorporation of seafloor topography in electromagnetic modeling, Geophys. J. Int., submitted, 2001.
・ Constable, Parker, and Constable, Occam's inversion: A practical algorithm for generating smooth models from electromagnetic sounding data, Geophysics, 52, 289-300, 1987.
・ Crotwell, H. Philip, Owens, Thomas J. and Ritsema, Jeroen, The TauP Toolkit: Flexible Seismic Travel-time and Ray-path Utilities, Seismological Research Letters, 70, 154-160, 1999.
・ Evans, R.L., Tarits, P., Chave, A.D., White, A., Heinson, G., Filloux, J.H., Toh, H., Seama, N., Utada, H., Booker, J.R., and Unsworth, M.J., Asymmetric Electrical Structure in the Mantle Beneath the East Pacific Rise at p17。S, Science, 286, 752-756, 1999.
・ Kanamori, H., and K. Abe, Deep structure of island arcs as revealed by surface waves, Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo , 46, 1001-1025, 1968.
・ Karig, D.E., Origin and development of the marginal basins of the western Pacific, J. Geophys. Res. 76, 2542-2561, 1971.
・ Mitchell, B.J., and G.K. Yu, Surface wave velocities, regionalized velocity models, and anisotropy of the Pacific crust and upper mantle, Geophys. J. Roy. Astr. Soc., 63, 497-514, 1980.
・ Nolasco, R., Tarits, P., Filloux, J. H., and Chave, A. D., Magnetotelluric imageing of the Society Islands hotspot, J. Geophys. Res., 103, 30287-30309, 1998.
・ Woods, M.T., J.-J. Leveque, E.A. Okal, and M. Cara, Two-station measurements of Rayleigh wave group velocity along the Hawaiian swell, Geophys. Res. Lett., 18, 105-108, 1991.

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