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平成9年度の研究成果

海洋底観測研究班(第2班)

(A)海底孔内観測
(B)海底地震計(OBS)による観測
 計画の2年目にあたり、海洋底観測研究班では、(A)半永久的な海底孔内地球物理観測点の実現に向けて測器の製作を進めつつ、 (B)海底に新たな観測の窓を開く機動観測を実施した。研究航海は、西太平洋、インド洋にまたがり5航海を数えた。以下にその成果の概要を述べる。

(A)海底孔内観測は、日本海溝が最初の設置点(2地点、深海テラスの海底下約1400 m)となることが決定した。プレート沈み込みのダイナミクスの理解を最重要目標として、地震・地殻変動の複合観測を行うシステムを埋設する。観測項目は、高感度の体積歪、広帯域地震計(2種類)、傾斜で、広いダイナミックレンジを確保し、かつ高解像度であることが特徴である(図1)。
図1 孔内設置型広帯域地震計
 設置に向けて、孔内地震観測システムの陸上試験機を整備し、孔内歪計の孔内リエントリー試験装置を開発した。また、孔内での安定した動作のためには周囲の岩石との強固なカップリングが必要であり、孔内で流体移動が雑音とならないようにしなくてはならない。 このため、セメントで固着させる方式を採用することにし、特殊セメントの注入固化試験を陸上で行い、固化後のサンプルを採取して、注入方法などの問題についてノウハウを蓄積した。
 設置場所としては、目的達成にもっとも有効な地点を選択し、地球深部のプロセス理解につなげなくてはならない。またローカルな影響を把握し、設置に際しての技術的問題をクリアにしておき、高品質の観測データが得られる場所を選ばなければならない。そのために地殻構造の調査を繰り返してきたが、9年度も研究船淡青丸により調査を実施し、設置場所の地震学的性質を詳しく把握した。
 現在陸上で実現されて多大の成果をあげているGPS観測のように、海底で地殻の動きを感知できれば、地球ダイナミクスの理解は大きく進展するに違いない。電磁波を通さない海では音波に頼ることになるが、年数cmの変位の検知をめざして基礎実験を続けている。水中音速の精密な計測装置を整備し、キネマティックGPS船位観測の基礎データを得た。文頭へ
(B)海底地震計(OBS)による観測については、長期化、広帯域化を図っている。これまでに、広帯域海底地震計として、CMG型の陸上評価試験を実施し、またPMD型の海底評価試験も実施した。後者(PMD Scientific, Inc. のPMD2023-WB、観測帯域は0.033 - 20 Hz)は比較的廉価であり、ガラス球1個に収められることが大きな利点である。これを改良して、従来の自由落下・自己浮上型OBSのセンサ部分と置き換えた。記録器は4チャンネル、16ビットA/D、100 Hzサンプリング、DATテープを記録媒体とするものである。データを圧縮し、2台の記録器を併用することにより、数か月間の記録を行なうことができる。この超小型広帯域海底地震計による観測が実現し、表面波、コアフェーズの検出が可能になったことにより、海半球ネットワーク計画の目標達成に大きく近づいた。
 四国海盆で観測した例として、千島列島で起こった地震の記録を図2に示す。

図2 広帯域海底地震計による長周期の波の観測例。四国海盆において表面波を観測した(1997年7月14日16時09分、43.3N、146.4E、Mw6.1の浅発地震)。 震央距離は1640 km。
近隣の陸上観測点の波形と比較すると、P波波形は海底地震計の記録の方が残響的であり、今後の改良が望まれる。その原因は、堆積層での多重反射あるいは海水層の影響と考えられ、後者ならば埋設が有効である。観測期間中の地動スペクトルの変動を見ると、地震計の設置直後に台風が地震計の上を通過したため、脈動も平常時より20 dB程度増加したことがわかる。
 機動観測としては、研究船白鳳丸と用船により西太平洋オントンジャワ海台、ソロモン島弧下の地殻・上部マントル構造調査のための地震・電磁気観測を行った(図3)。
図3 西太平洋の約1500 x 3500 km2 もの広大な範囲に展開した広帯域地震・電磁気機動観測(地震計28点、電磁気計3点)。★印は広帯域地震計の設置点。電磁気観測は●印、大きな★印、広帯域地震計アレーの中央で行った。
オントンジャワ海台がどう形成されたか、海台を1億2千万年前に形成した痕跡がマントルに残されているか、海台の存在がプレート構造をどう変えたか、海台がソロモン海溝に衝突してどのように削剥され、沈み込んでいるか、インド・オーストラリアプレートと太平洋プレートに挟まれたソロモン島弧のテクトニクス等、興味深い問題がたくさんある海域であり、多くの成果が期待される。電磁気観測では海底電磁気計(OBEM)に加え、海底電磁気ステーション(SFEMS)の設置も行った。地震観測では、従来型海底地震計に加え、上記の新型広帯域海底地震計も設置した。文頭へ