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平成9年度の研究成果

データ処理解析研究班(第4班)

 第4班では、平成10年度のデータセンター開設に間に合うよう、必要なソフトウエアの開発や旧POSEIDON 地震観測網の整理・編集・データベース化を急いだ。その結果、平成10年4月から一応データセンターとして内外の研究者のリクエストに応じることのできる体制が整った。この体制については、本ニュースレターの別稿に詳述されている。
 海半球ネットワークで得られるデータあるいは国際的データ交換を通じて得られる他機関のデータから、地球内部の情報を得るための解析手法・ソフトウエアの開発もまた、第4班の重要な役目である。特に地震波形の計算に関して、Direct Solution Method(DSM)という手法の開発に力を入れており、球対称構造の地球モデルに対する波形計算のソフトウエアは既にパッケージ化されて公開されている。非球対称構造の地球モデルに対する DSM の原理に基づく波形計算法の開発がどこまで進んでいるかについては、月刊「地球」特集号(1998年6月号)に詳しい解説がある。
 地球電磁気学の分野では、観測網の建設とそこからのデータの解析が進んで3次元的に不均質なマントルの電気伝導度分布がわかったとしたら、それは地磁気発生のメカニズムの解明にも大きく貢献するはずである、と予言する研究が進められた。地磁気発生のメカニズムの鍵を握るのは地球外核におけるトロイダル磁場であると考えられるが、 この磁場は外核内に閉じ込 められているため地表で観測することはきわめて難しいとされている。電磁気グループでは、マントルの3次元的に不均質な電気伝導度分布がわかれば、外核のトロイダル磁場変動を地表で検出することが可能なはずだとの見通しの下に、グローバルな電磁場変動をモデリングする手法を開発した。そしてこの手法を用いて、マントル最下部(D"層)に地震波トモグラフィーで見られるのと同様なパターンの不均質電気伝導度分布があった場合、外核における電磁場変動が地表ではどのように観測されるかを調べた。
 図1はその1例で、マントル最下部に球関数の (l,m) = (2,2) で表現される不均質電気伝導度分布を与え、一方、外核には1年周期のトロイダル(T2)磁場変動を与えた場合に、地表で観測される磁場の鉛直成分の分布が示されている。値は、核表面のトロイダル(T2)磁場で規格化している。地球の電気伝導度に不均質がなければ、トロイダル磁場変動は地表で観測されることはないが、不均質によってポロイダル磁場変動へとモードが変換され、不均質の程度によっては地表で充分観測可能であることが示された。

図1 コア-マントル境界に1年周期で単位強さのトロイダル磁場を与えたとき、 D"層にある (2,2) 型の不均質によって生じる地表における磁場の鉛直成分(下向きが正)。 黒丸は太平洋にある地磁気観測所と海半球ネットワークの観測点の位置を示す。
 さて、平成9年度、第4班も含めて海半球ネットワーク計画における最大のトピック的な成果は、常時地球自由振動現象の発見であろう。この現象は、最初、海半球ネットワーク超伝導重力計アレーの南極昭和基地の記録を解析して見いだされ (Nawa et al., 1998)、 ついでグローバルな重力計観測網(IDA)の記録の解析(Suda et al., 1998; Tanimoto et al., 1998)や広帯域地震計観測網(IRIS)の記録の解析(Kobayashi and Nishida, 1998)によってその存在が確認された。現在、この常時自由振動の励起源の探索が始まっており、様々な可能性が指摘されているものの(Kanamori, 1998)、最有力視されているのは大気の擾乱によって地球表面にかかる圧力変動である(Kobayashi and Nishida, 1998; Tanimoto, 1998)。 現象の発見については本ニュースレターの第1号に詳しく解説されているが、発見から確認、さらに励起源の提唱から探索まで、すべて本計画に参加する研究者及びその共同研究者によってなされつつあることは特筆すべきである。
図2は、海半球ネットワーク超伝導重力計アレーの第2番目の観測点としてオーストラリアのキャンベラに設置した重力計の記録に見られる常時自由振動の証拠である。観測が始まってまだ日が浅いので、6か月という比較的短い期間のスペクトログラム(スペクトル強度の時間変化を示した図)であるが、時間軸(縦軸)に平行に何本もの弱い筋がほぼ等間隔に入っているのが見える。これらの筋は、すべて横軸上の位置(周波数)が地球の伸び縮み振動の基本モードと一致し、地球の自由振動を表していることは明らかである。 これは1997年前半6か月間の連続記録の解析結果であるが、観測期間中に大中地震が起きていない静かな時 (約1か月分) だけを選び出してスペクトルをとっても、基本モードに対応するところに明瞭にピークが見える。このことから、地球は地震の起きていないときでも絶えず揺すられて振動していると言える。

図2 オーストラリア・キャンベラ観測点の超伝導重力計記録のスペクトログラム。3日分のスペクトルを1日ずつずらして半年分を縦に並べたもの。図の下枠の数字は周波数、左枠の数字は日数。スペクトルの強度は濃淡で表わされている。縦に何本もの弱い筋がみえるが、それら全てが地球の伸び縮み振動の基本モードに対応する。 図の右のバーは地震のモーメントを表わす(単位はNm、たとえば20は1020 Nmを意味する)。

常時地球自由振動に関する文献 (国際誌に掲載あるいは掲載予定のもののみ) Kanamori, H., Shaking without quaking, Science, 279, 2063-2064, 1998. Kobayashi, N. and K. Nishida, Continuous excitation of planetary free oscillations by atmospheric disturbances, to be accepted for publication in Nature, 1998. Nawa. K., N. Suda, Y. Fukao, T. Sato and K. Shibuya, Incessant excitation of the Earth's free oscillations, Earth Planets and Space, 50, 3-8, 1998. Suda, N., K. Nawa and Y. Fukao, Earth's backgroud free oscillations, Science, 279, 2089-2091, 1998. Tanimoto, T., Excitation of normal modes by atmospheric turbulence: Source of long period seismic noise, submitted to Geophys. J. Int., 1998. Tanimoto, T, J. Um, K. Nishida and N. Kobayashi, Earth's continuous oscillations observed on seismically quiet days, Geophys. Res. Lett., 25, 1553-1556, 1998.文頭へ