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「海半球ネットワーク計画」3年目に向けて

深尾良夫(東京大学地震研究所)
 新プログラム「海半球ネットワーク計画」が発足して早2年が立ちました。発足当 時の計画概要とその学問的背景については、月刊「地球」1997年1月号に「海半球ネ ットワーク」の特集が組まれています。またその後1年間の進展状況については、「 海半球ネットワークニュースレターNo.1」に紹介があります。更に、発足後2年間の 進展については、月刊「地球」1998年6月号として総特集「地球内部を覗く新しい目 ─海半球ネットワーク(2)─」が出版されました。本ニュースレターは、この特集号 と重なるところもありますが、より広く浅く計画の進展状況を皆様にお知らせするも のです。
 本計画は、総括班、海洋島観測研究班、海洋底観測研究班、システム開発研究班、 データ処理解析研究班のそれぞれが役割を分担して、西太平洋を中心とする太平洋半 球(海半球)に地震・地球電磁気・測地からなる地球物理観測網を展開し、従来最大 の観測空白域であった海洋底から直接地球の中を覗き込もうとするものです。計画の 最大の眼目が、地球内部に向けて新しい観測窓を開けることにあるのは言うまでもあ りません。けれども、建設途上の観測網のデータやそれを補う既存のデータから、未 報告の自然現象を発見したり地球内部の活動に関するイメージを得ること、あるいは そのための新しいデータ解析手法を発展させることも計画の大きな目的となっています。
 海半球ネットワークは、地震観測網・地球電磁気観測網・測地観測網からなります 。図1、2、3はそれぞれ計画が発足する前と比べてどれだけ観測点が整備されたか を示したものです。以下、この図を少し説明致します。
 地震観測網(図1)は海洋島など陸に設置した広帯域地震計と深海底に設置したボ アホール型・堆積層埋設型などの広帯域海底地震計とによって構成されています。陸 の観測網については、従来のPOSEIDON観測点の観測壕を改修し、本計画で開発した観 測システムに置き換えることを主とし、あとは数点全く新しい観測点を建設しつつあ ります。図1の海底観測点は設置予定のもので、現在は、本計画で開発した海底地震 観測システムの実用テスト及び実験観測を実施しつつある段階です。
 地球電磁気観測網(図2)は、海洋島などの陸と深海底に設置した磁力計と電位差 計及び、国際通信用海底同軸ケーブルを再利用した電位差測定装置とからなります。 陸の観測点はできるだけ地震観測点と同一場所を選ぶようにしていますが、そうでな い場所も何点かあります。地震の場合と同じく、海底観測点については、本計画で開 発した観測システムの実用テスト及び実験観測を実施しつつある段階です。海底同軸 ケーブル観測網には今年度から新たに二宮─沖縄間を結ぶ沖縄ケーブルが加わります 。二宮─グアムを結ぶGeO-TOCケーブルでは電位差測定のほか地震観測も行なわれて います。
 測地観測網(図3)は、西太平洋地域に展開されたGPS観測網と南極昭和基地─オ ーストラリアーインドネシア─日本を結ぶ超伝導重力計アレーとからなります。GPS 観測網は、本計画だけでなく複数のプロジェクトによって設置が進められており、そ のため当初計画を上回る数の観測点ができつつあります。超伝導重力計アレーに関し ては、オーストラリアのキャンベラに設置された重力計が動きだしてから1年近く立 ちますが、非常に静かな観測点で今後の成果が期待されます。
 これらの観測網のデータは、海半球観測研究センター(東京大学地震研究所)内に 設置された海半球ネットワークデータセンターを通じて順次公開される予定です。デ ータセンターについては別稿を御覧下さい。  本年度はちょうど計画半ばの3年目にあたり、これまでの実績の点検と計画変更の 検討などが必要とされます。実績の点検にあたっては、読者諸氏にも本ニュースレタ ーを読んでいただき、上記の目的に沿って計画がどこまで進んでいるか、これまでど のような成果があがっているかを御判断の上、忌憚のない御指摘・御助言をお寄せい ただければ幸いです。計画の変更については、現在、各班の総力を結集した海陸にわ たる長期大規模臨時観測を検討中であり、近くその概略をホームページ(http://eri -ndc.eri.u-tokyo.ac.jp/)でお知らせする予定です。