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海底ケーブルネットワークによる電位差観測の近況 |
歌田久司(東京大学地震研究所) |
観測の状況 |
研究成果 |
今後の計画 |
謝辞 |
われわれの海半球ネットワーク計画(OHP)は、地球深部の構造や活動を解明するために行なわれているが、電磁気観測が目指すものは マントルの電気伝導度構造の解明および核のダイナミクスの解明である。その目的のために、すでに紹介されているように広大な観測空白域である太平洋地域 に高密度な高精度観測網を構築することを目指している。電磁気学的な観測としては、海底を含む地磁気観測網と海底ケーブルによる電位差観測網が大きな柱 となる。ここでは海底ケーブルによる電位差観測について、これまでの研究経過を報告する。 |
[観測の状況] 図1に現在OHPで電位差観測を行なっている海底ケーブルの位置を示す。 |
図1 海半球ネットワーク計画で電位差観測を行なっている海底ケーブルネットワーク。沖縄ケーブル(OKINAWA)および日中ケーブル(J-C)は平成10年度中に観測を開始する予定である。 |
グアムを基点にして、二宮・Baler(フィリピン)・ミッドウエイとの間の電位差測定は、グアムのAT&T局内で行なっている。グアム─二宮ケーブル(GeO-TOC、旧TPC-1)は地震観測のために回線として生きているので、グアムで測定したケーブル電位差観測データは海底ケーブルを通して二宮にリアルタイムで転送して、二宮局内に設置したパソコンで収録している。日本海ケーブル(JASC)の測定はナホトカ局内で行なっている。 これは、 システムの運用停 止の際に直江津側のケーブルを海岸から約 50 kmの地点まで撤去して、その場所にグランドしたためである。グアム-沖縄ケーブル(TPC-2)についても、グアム側はグアム島沖でグランドされているため、測定は沖縄で行なっている。グアム─二宮ケーブルでは、1997年1月14日から電位差観測以外に地震観測も行なわれている。地震計がケーブルに接続されているのは、東経 140 度 54.33 分 北緯 31 度 24.62 分の地点で、IZU観測点と呼ばれている。一方、グアム─沖縄ケーブルを利用して沖縄沖に海底総合観測ステーションを設置する計画が進んでいる(科学技術庁予算による)。文頭へ |
[研究成果] 海底ケーブルネットワークによる電位差観測は、マントルの構造と核のダイナミクスの解明を目的としている。マントルの構造は、周期数分〜数日程度の電位差変動と地磁気変動の解析によって得ることができる。地磁気と地電位差の変動を用いるのでいわゆるMagnetotelluric(MT)法の原理を用いるが、通常のMT法では100 m程度の電極間隔で電位差を測定するのに対して、海底ケーブルを用いると間隔が千kmスケールになる。簡単に言うと、電位差は電場の積分値であるので、長距離を積分した電場から求められる構造も、空間的にある種の平均操作を受けたものになる。空間的に小さなスケールの構造があっても、平均操作によって観測される電位差にはほとんど効かないことは容易に想像できる。逆にいうと、この観測データは大局的な構造を知る上では有効であるということになる。具体的にはグアム─二宮とグアム─フィリピン間のケーブルについて構造解析を行なったところ、フィリピン海下には約 100 kmの深さに高電気伝導度層があるらしいことがわかってきた。また、日本海ケーブルのデータを用いて日本列島周辺のマントルの構造のモデリングを行ない、論文にまとめつつある。 海半球ネットワークの観測から地球深部の情報を引き出すためにはどうしても3次元地球のモデリングを行なうことが必要である。小山(1998、東京大学修士論文)は、3次元的な不均質構造をもった地球に対するグローバルな電磁誘導の問題を解くプログラムを開発した。これは、今後得られるデータの解釈の上で強力な武器になるであろう。この問題は、外部磁場変動による電磁誘導に適用して地下構造を調べるためにも用いることができるが、内部起源の電磁場変動のふるまいを調べることも可能である。観測される内部起源の電磁場変動のうちもっとも速い(周期が短い)のは数年〜数十年の時間スケールをもっている。このような変動は、従来磁場データが唯一の観測量であったが、海底ケーブルによって電場変動も観測されると、外核表面のトロイダル磁場(半径方向の成分がないので地表では観測されない磁場)の大きさや分布、さらには地震波速度構造でD”層にあたるマントル最下部の電気伝導度の不均質構造などを調べることも可能になってきた。 これまでに海底ケーブルネットワークで得られた電位差データの20日平均値をとって、ゆっくりした変動を見たのが図2である。 グアム-二宮のデータの変動が極めて大きいが、主として給電装置に原因がある(ノイズ)ものと考えられる。解析方法にさらなる工夫が必要である。また、いずれのケーブル電位差データにもかなり長期間の欠測がある。これらは記録装置のトラブルによるものである。上に述べたような、トロイダル磁場に関係した「信号」の検出のためには、まだ改善すべき点は多い。文頭へ |
[今後の計画] 図1に示したように、従来の観測に加えて沖縄ケーブル(沖縄─二宮)と日中ケーブル(熊本苓北ー上海)が利用できることになった。今年度中にこれらを用いた電位差観測を開始する予定である。沖縄ケーブルが利用可能になり、これまでに観測してきた2本のケーブル(グアム─二宮、グアム─沖縄)とともにフィリピン海プレートの上に巨大な三角形を描くことになる。地球電場の観測の上からも画期的なことである。また、沖縄ケーブルは南海トラフに沿って敷設されているので、将来的にはケーブルに地震計を接続する計画もある。電位差観測に関していえば、観測網の整備はこのくらいでほぼ一段落することになり、今後はデータの公開に向けてデータセンターの整備を順次行なって行く予定である。文頭へ |
[謝辞] このような長期間の観測を行なえるのは、以下の方々の協力によるところが大きい。記してお礼申し上げます。 グアム観測点:Paul Hattori氏(USGS)、George Quitgua氏(AT&T)他のグアム局の皆様 二宮観測点:KDD二宮海底線中継所の皆様 ナホトカ観測点:Valerian Nikiforov教授(ウラジオストク太平洋海洋研究所)、ROSTELCOM ナホトカ電話局の皆様 沖縄観測点:小賀百樹助教授(琉球大学)、KDD沖縄支社の皆様文頭へ |