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平成10年度の研究成果

システム開発研究班(第3班)

[超伝導重力計観測]
[海底地震計観測]
[海底地球物理観測]
[海洋島電磁気観測]
[海底ケーブル電位差観測]
[超伝導重力計観測]
超伝導重力計観測では、オーストラリア、インドネシアに続いて、平成11年度に北極圏への超伝導重力計の設置を計画しており、10年度には設置地点を選定するためにノルウエー・スピッツベルゲン島での調査を行った。 北極圏での超伝導重力計観測により、南極昭和基地からオーストラリア、インドネシア、日本に至る現在の観測網が拡張され、広緯度範囲にわたるグローバルなネットワークが完成する。 10年度の調査の概要は以下の通りである。
調査期間:平成10年9月19日 〜 9月28日
調査場所:Geodetic Institute, Norwegian Mapping
Authority, Oslo, Norway
Ny-Alesund Space Geodetic Observatory,
Ny-Alesund, Spitsbergen
Norwegian Polar Institute, Oslo & Toromso,
Norway
参加者:佐藤忠弘(国立天文台)、神沼克伊(国立極地研究所)
調査結果:超伝導重力計設置場所として、下記の地点を選定した。
Ny-Alesund Space Geodetic Observatory(緯度:78.9N、経度:11.9E、標高:40 m)
 超伝導重力計の観測のためには、現地での強力なカウンターパートの存在が必須であり、候補地点についてはノルウエー地図局測地研究所の全面的な協力が得られることが確認されている。 また、島には測地研究所が所有する測地観測所があり、VLBIアンテナによる観測が常駐体制で行われているので、重力計の保守や点検の点でも問題がない。 観測データの面からは、サブサイズミックバンドの長い周期の現象について、このような北の高緯度地方での観測例はほとんどなく、南極昭和基地に相対する北極圏の観測点として、有用なデータが得られる可能性が高い。 以下に、設置場所、装置輸送・保守、関連観測データについて、調査結果をまとめる。

1)設置場所
 重力計観測候補地点は、ノルウエー地図局測地研究所が管轄するスピッツベルゲン島ニーオルスンにある測地観測所の敷地内にある。ニーオルスンは観測村になっていて、各国による各種の地球物理観測が行われている。 上記観測所にはVLBIアンテナが設置されており(図1)、
図1 スピッツベルゲン島の測地観測所のVLBIアンテナ

国際観測点として週3〜4回の観測が行われている。アンテナの北西約40 mの場所に、基盤岩上に敷設された5 m x 5 mの観測基台が準備されており、重力計はこの基台上に設置される予定となっている(図2)。
図2 超伝導重力計を設置する予定の基台

アンテナ及び基台は海岸から約100 m離れた高さ40 mのがけの上にあり、観測点の東側約150 mの地点をほぼ北西方向の滑走路が走っている。
基台では現在6 mのアンテナでGPS観測が行われているが、研究所ではこの基台とアンテナを覆う高さ6 mの建物を建設する計画が進められていて、1999年(平成11年)5月に竣工の予定となっている。 超伝導重力計のためにもこの建物は必要であるが、建物の風による振動、変形が、基台の振動、傾斜のノイズを上昇させることが懸念され、建物設計などで研究所側との密接な連絡が必要と考えている。

2)輸送、保守
 スピッツベルゲン島には、オスロ〜ロングイヤービン(人口数千人の炭坑町)までは中型旅客機が運航し、ロングイヤービン〜ニーオルスン間は、夏場に週2〜3便の小型飛行機が飛んでいる。 小型飛行機で運べる荷物の大きさには制限があるため、大型貨物に関しては船便となる。
液体ヘリウムはトロムソ(ノルウエー北端の都市)に配送会社があり、120リットルの容器での配送が船で可能である。 船便ではトロムソ〜ニーオルスン間は、直行便で3日、他に立ち寄る便では最大2週間かかるため、航海中のヘリウムの蒸発量を考えて、1回の輸送には120リットル容器2本で対応することができる。
保守に関連しては、VLBI観測のため測地観測所の2名が常駐しており、週1回程度の見回りは可能である。また、通信手段に関しては、地震やVLBIデータの伝送、インターネット通信が行われているので、通信上の問題はない。

3)関連観測データ
 観測基台から南東約1.5 kmの地点にベルゲン大学が管理するIRIS観測点(KBS)があり、STS地震計による地震観測が行われている。 同観測点では、1998年からラコステD型重力計を改造した潮汐重力計による観測が行われている。 また重力計を設置する予定の基台では、1998年7月にドイツのグループによる絶対重力計FG5による観測が行われている。その結果を見ると、絶対測定から見た観測候補地のノイズレベルは日本の静穏な観測点と同程度、またはそれ以下と判断される。
[海底地震計観測]
海半球ネットワークプロジェクトの成否に関わる1つの重要なキーポイントは、西太平洋の海域に広帯域海底地震観測点を機動的に配置することにある。ここでは、平成10年度に実施した試験観測について述べる。

1)東太平洋海膨での長期海底地震観測
 9年7月から10年9月まで、東太平洋海膨に1Hzセンサー(Lennartz製LE-3D Lite)を使用した海底地震計2台を設置した。これはチタン球1個(直径55 cm)による自己浮上型で(図3)、
図3 東太平洋海膨に設置した自己浮上型長期観測用海底地震計の外観。チタン球上部にあるのは音響通信用トランスデューサ。

球内部にはセンサー、ハードディスク記録型レコーダー、リチウム電池、音響トランスポンダを収納している。 設置時には海底まで輸送後、潜水艇(しんかい6500、JAMSTEC)により安定した地形の場所へ移動させた。 余剰浮力の問題から搭載するリチウム電池の数に制限があったため、地震観測そのものは3ヶ月間である。回収時には、錘切り離し装置の故障が設置時に判明していた1台は、 潜水艇(アルビン、ウッズホ−ル海洋研究所)によって浮力材を取り付けて浮上させたが、もう1台は観測船上から錘切り離し命令を送り自己浮上させ(図4)、
図4 自己浮上し観測船に引き上げられる途中の海底地震計。手前の円筒は深海用浮力材。チタン球の塗装が剥がれているのが見える。

無事回収した。 この海域は熱水活動が活発で長期間の設置に際して腐蝕が懸念されたが、地震計の外装へのチタン材の採用により腐蝕の問題は発生しなかった。 3ヶ月間の連続記録には特に活発な地震活動は認められないが、小さな地震が1〜2時間に1回程度発生している。残念ながら遠地地震と考えられる記録は見られなかった。

2)相模湾での広帯域海底地震観測
 10年9月末から約2ヶ月間、相模湾で広帯域センサー(Guralp製CMG-3T)を用いた海底地震計による試験観測を行った。このセンサーは同社製の専用レベリング装置に搭載されており容積が大きいため、 センサーを入れたチタン球とレコーダーなどを入れたチタン球の2個の容器から構成し(図5)、
図5 チタン球2個による広帯域海底地震計の外観。左側がセンサー用、右側がレコーダー用で錘とその切り離し部がある。設置用の枠が上部に見えている。

自己浮上による回収を可能とした。音響通信機能を持つトランスポンダも内蔵することで、音響リンクによるレコーダーなどの遠隔制御が可能としてある。 設置時は、一時的に枠に取り付けて自由落下させた地震計を潜水艇(しんかい2000、JAMSTEC)で掴み、最終的位置(水深1440 m)へ移動させ設置した。 その後、観測船上から音響リンクによりセンサーの制御を行ったが不調に終わった。そのため、回収までの期間にも二度、制御を試みたが期待される返答は得られなかった。 原因は回収後に判明し、専用レベリング装置の機械的故障であった。 回収は12月に実施し、正常に錘が切り離されて自己浮上し、無事回収された。 上記の故障のために、レベリング及びセンサーロックの解除が不可能となり記録は得られなかったが、自由落下・自己浮上という方式でもセンサー自体には何の損傷も無いこと、 音響リンクによる観測船と海底地震計の間での通信機能が確認できたことは重要な結果である。

3)海水電池の発電試験
 海底での長期連続観測用に、マグネシウム合金電極と海水中の溶存酸素を利用する海水電池(SIMRAD製SWB600)の実地試験を10年12月に駿河湾で2度、水深700 m及び1400 mで実施した。 原理上、電極周辺での海水の交換が必要であり、流速の小さい深海環境下での発電能力を確認する必要がある。 電池の構成要素としては、マグネシウム合金電極とそれを取り囲む炭素繊維電極からなるセル、昇圧用DC/DCコンバータ、鉛蓄電池があるが、この試験ではセル単体での発電状態を調べた(図6)。
図6 試験用の枠に取り付け、着水した状態の海水電池の外観。上部にロープが付いている中央部の円筒(灰色)がマグネシウム合金の電極。その周囲に海草状に複数あるのが炭素繊維電極。

結果として、着水直後から約1.8 Vで2W程度の発電が開始され、着底後も大きな変化は見られなかった。定格特性では常時3 W の電力が2〜3年間得られることになっており、今後の長期海底観測用の電源として期待できる。
[海底地球物理観測]
2班と共同で、GPS/音響測位により沈み込み帯付近の深海底の精密測位実験を行うことを目的に、スクリップス海洋研究所との共同研究を開始した。 実験予定海域は三陸沖日本海溝とし、平成12年度に実海域実験を開始し、5年以上継続する予定である。10年度は深海底用の精密測位音響トランスポンダ3台を導入し、2月末にスクリップスのテストタンクで性能確認試験を行った。
9年度から開始したGPS/音響測位に向けた小型精密音響測距システムの開発に関しては、小型精密音響トランスポンダ3台を相模湾海底に設置し、船上装置のプロトタイプを用いて精密音響測位実験を行い、水路部が担当したキネマティックGPS測位と比較した。 船上の処理部分にまだ問題があり、7.5 cmの分解能の測距しかできなかったが、測位のrmsは15 cmよりよく、測距分解能を向上させることで、cmオーダーの測位を実現する予定である。 また、海中の精密音響測位における最大の問題である海中の温度分布の変化の補正を精密に行うために、計測分解能0.001 ℃の精密温度モニタリング装置2式を導入した。 温度センサーはデータロガー付きであり、深海用の係留系に3個、実験用の係留系に2個を取り付ける。
沈み込み帯における海底堆積物中の間隙水の流動が、熱エネルギーや物質の移動に果たす役割を調べることを目的として、熱流量と間隙水圧の勾配を長期計測する装置の開発を進めている。 間隙水圧の測定は、高精度の差圧圧力センサにより、海底面の水圧と堆積物中の圧力の差を測るという方法で行う。これまで、実験室内における差圧センサの長期安定性の試験、圧力と温度を計測するデータロガーの製作等を 行ってきたが、 10年度は差圧センサとデータロガーを耐圧容器に収納し、海中で複数点の温度と差圧を計測する試験を実施した。また、長期計測終了後にデータロガーを回収する際に、温度・圧力センサプローブを切り離す機構の開発も行った。
[海洋島電磁気観測]
長春(中国吉林省)に地磁気観測装置を設置した。設置には中国地震局地質研究所および吉林省地震局のお世話になった。装置の設置と並行して、電話回線を利用した電位差変動の臨時観測を中国側との共同で行なった。これらのデータはいわゆるネットワークMT法の解析を行なうことにより、上部マントルの電気伝導度構造の推定に用いる予定である。  また、ポナペ、キリチマチにおいては絶対磁気測定を行なった。次の観測候補地のうち、南鳥島(マーカス島)およびトンガタプ島(トンガ王国)において予備調査を行ない、良好な結果を得た。いずれも観測点新設へ向けての手続を行なっている。
[海底ケーブル電位差観測]
前号のニュースレター(No.2)で予告したように、日中ケーブル(熊本県苓北観測点)による測定を平成10年12月に開始することができ、海半球計画による電位差観測のネットワーク作りもほぼ一段落した。 今 後は得られるデータを解析して、(1)マントルの電気伝導度構造の決定、(2)10年以上の時間スケールの変動の検出、などを目指す。いずれも、データの性質上リアルタイムの収集が不可欠なわけではないが、観測を長期的に維持するためにはオンラインによる収集が望ましいことは言うまでもない。特に測定装置に異常が発生した時の欠測の長さは、オンライン化されているかどうかでかなりの違いが生ずる。そこで、これらのデータを1日1回電話回線により収集する方式でオンライン化することにした。各観測点にLinuxを搭載したパソコンをおき、測定およびデータ転送を制御する。データは2秒に1回サンプルし、ハードディスクに取り込む。1日1回、インターネットによりデータを地震研究所のワークステーションに転送(ftp)する。1日のデータ量は、二宮観測点が約1 MB、沖縄および苓北が約170 kBである。したがってデータの最も多い二宮からの転送も約2分で終了する(ISDN64による)。これにより、毎日その前日までのデータを研究室でチェックできるようになった。