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平成10年度の研究成果

データ処理解析研究班(第4班)

常時自由振動励起振幅の季節変動
マントルの電気伝導度分布解明への新しい試み
第4班は、海半球計画で得られたデータの処理・編集・公開及び解析を主要な役割としている。 この中でデータの処理・編集・公開を担当するデータセンターに関しては、本ニュースレターの別稿にその進展状況を詳述する。 また海半球ネットワークが展開されつつある西太平洋域(世界最大の沈み込み帯)のマントル構造をデータ解析の側面から 明らかにすることは、第4班の最大の課題の1つであるが、これについては今回は特に「920 km不連続面」に焦点を絞って別稿で詳述する。 データの有効利用のためにはデータセンターの充実と共に、データ解析のための手法開発が欠かせないが、 第4班では特に地震波形の計算手法及びその手法を組み込んだ波形インバージョンの開発に力を入れている。 球対称構造の地球モデルに対するDSM法による波形計算のソフトウエアは、既にパッケージ化され公開されている。 これを非球対称地球モデルにまで拡張するアルゴリズムもほぼ完成し、現在ソフトウエアパッケージとして実用化する研究を始めている。 海半球ネットワークは建設途上であり地域も西太平洋域に焦点を絞っているから、既設の陸上グローバル観測網のデータと併せたデータ解析が多くの場合必要になる。 本稿ではこうしたグローバルデータの解析から生まれたトピックスを、地震学分野と電磁気学分野から1つずつ紹介する。 地震学分野からは地震研究所大学院生の西田究氏に、今も続く常時地球自由振動に関する新発見を報告してもらう。 電磁気学分野からは地震研究所特別研究員の藤井郁子氏に、地球磁場応答関数の推定精度を飛躍的に向上させた手法について報告してもらう。
[常時自由振動励起振幅の季節変動]
西田 究 (東京大学地震研究所)
 最近、地震が起きていない期間においても常時、自由振動が励起されている観測事実が報告された。励起源としては大気擾乱が有力である。 しかしながら、大気励起理論を直接支持している観測事実はなく、他の未知の現象が観測事実を説明できる可能性もある。 つまり大気励起メカニズムを検証するためには、大気励起理論から期待される現象の検出が重要である。 期待される現象としては(i)励起振幅の季節変動、 (ii)大気と固体地球のカップリング が考えられる。本研究では(i)、(ii)に相当する現象の検出に成功した。 解析にはIRISの20観測点における、10 sec サンプリングの鉛直成分を用いた。各観測点において、時系列データから1日長のデータを3時間ずつ開始時刻をずらしながら切り出した。 切り出した時系列から Welch テーパを用いパワースペクトルを計算した。計算したパワースペクトルの中で、局所的なノイズや地震の影響を受けている物は取り除いた[1]。 その上で4.5カ月分のパワースペクトルを22.5日づつ、ずらしながらアンサンブル平均をとり、スペクトログラムを計算した。この結果が 図 1 である。
図1 全観測点の平均スペクトログラム(縦軸:時間、横軸:周波数)

この図を見ると、明らかに自由振動の伸び縮み基本モードと対応するピークが存在する。さらに年変動に対応する変動を見てとれる。また、0S29や0S37付近のモードの値は、周りのモードの振幅より10 %程度大きい。 以上、(i)励起振幅の 季節変動、(ii)励起振幅の2つの極大値 という2つの現象の検出に成功した。これら2つの現象は励起源に関し多くの情報を与える。
まず季節変動について考える。地球は一様な海陸分布をしていない。太陽からの見かけの陸地面積は、北半球の夏に最大値をとり、南半球の夏に最小値をとる。 アルベドの変化などを考慮すると、結果として大気擾乱の平均的大きさも年変動する。理論的には、励起振幅は北半球の夏に最大値をとり、またその変動の大きさは全振幅の10 %程度と見積もられている[2]。 この理論的予想と調和的な観測結果が得られた訳である。
次に観測された2つの極大値について考える。ピナツボ火山の噴火時に、大気と固体地球がカップルした振動が観測された[3]。その卓越周期が0S29と 0S37にちょうど対応する。 これらのモードでは大気の亜音波とモード数および固有周期が等しいため、大気の亜音波とエネルギーのやりとりをしているのである。この極大値は大気現象が励起源でないと説明できない。 以上のように、励起源は大気現象である可能性が高く、大気-固体地球のカップリングを考慮しなくてはならないと結論付けられる。

[参考文献]
[1] Nishida, K. and Kobayashi, N., J. Geophys. Res., submitted.
[2] Kobayashi, N. and Nishida, K., Nature, 395, 357, 1998.
[3] Kanamori, H. and Mori, J., Geophys. Res. Lett., 19, 721, 1992.

[マントルの電気伝導度分布解明への新しい試み]
藤井郁子 (東京大学地震研究所)
マントルの電気伝導度分布は、地震波速度分布と並んで、マントルダイナミクスを解明する重要な情報であるが、信頼できるモデルを得るのが困難な状況が続いてきた。 我々は、最新の地球磁場データベースに主成分法と呼ばれる多変量データ解析手法の一種を適用し、長周期の地球磁場変動に二つのソースメカニズムがあることを突き止め、結果として地球磁場応答関数の質を飛躍的に向上させることに成功した。 地球磁場応答関数は3次元モデリングのデータになる量であり、本研究によりデータ面から現実的な電気伝導度モデルを得る見通しをつけたことになる。 本研究では、1967 - 82年に79観測点で得られた磁場3成分の1時間値について主成分解析を行った。その結果、地球磁場の時間変動の空間分布は周期5- 100日にわたり一つの成分(第一モード)で表現できることがわかった。 周期42.6日での磁場の北向き(X)と鉛直下向き(Z)成分の第一モードを図2に示す。

図2 第一モードとソースモデル(磁場の北向きと鉛直下向き成分)

第一モードの空間構造を説明するには、従来想定されてきた磁気圏の赤道面に環電流をおいたソースモデル(図2点線)に加えて40°~ 50°から高緯度側では別のソースが必要なことが示唆された。 そこで、高緯度帯の磁場変動ソースとして電離層のオーロラ電流を時間的に平均した環電流を想定し、オーロラオーバルの中心の地磁気緯度±67°に対称に配置したところ、第一モードと赤道環電流モデルの食い違いをよく説明できることがわかった(図2実線)。 このような長周期でオーロラが定常的に環電流として近似でき、かつ、高緯度電流ソースの影響が中緯度まで及んでいたことは、本研究で初めて明らかになった。
次に、第一モードからオーロラ環電流の影響を取り除いてC値(地球磁場応答関数の一種)を計算し、赤道環電流だけを想定して計算したものと比較してみると、C値の地磁気緯度依存性が著しく改善された(図3)。
図3 オーロラ環電流のC値への影響

これにより、従来の研究で見のがされてきたオーロラ環電流の影響によるC値の歪みが主に60°から低緯度側で補正できた。このようにして求められたC値の地理的な分布を図4に示す。
図4 補正されたC値の地理的な分布

C値は近似的に地域的な一次元構造を反映する量だが、全球的に同一周期内で値がばらついていることがわかる。ばらつきは、エラーバーの小さいところだけ選んで保守的に見積もっても、 実部で1200 kmを中心として±約200 km、虚部で400 kmを中心として±約100 kmになる。 Weiss and Everett(1998)の概算では、C値が10 % ばらつくのを説明するには電気伝導度が水平方向に最低10倍変化することが必要であり、マントルの大規模な三次元構造の存在が推察される。

[参考文献] Weiss, C.J. and M.E. Everett, Geophys. J. Int., 135, 650-662, 1998.