研 究 目 的
研究目的
(a)西太平洋沈み込み帯滞留スラブの形状の推定  新たに得られる地震データと従来のデータを用いた地震波トモグラフィーにより、カムチャツカ・千島から日本、伊豆・小笠原、マリアナにいたる西太平洋沈みこみ帯全体にわたってスラブの滞留形状と深さや、準安定相・海洋性地殻の存在などを考慮した内部構造を連続的に空間分解能100kmでイメージングする。
(b)スラブの滞留にマントル不連続面がどのように寄与しているかを明らかにするために、マントル不連続面凹凸を空間分解能300kmで詳細にマッピングするとともに、トモグラフィーの結果と併せて、滞留スラブ内外の温度異常・含水率を推定する。
(c)当該領域で得られる地震波・電磁気の全データを管理し、当該領域に参加する研究者の解析に資するためのデータセンターの立ち上げ・運営をおこなう。
当該領域の推進に貢献できる点
当該領域は、マントル遷移層付近という深部に存在する滞留スラブを「診る」ことを重要なターゲットとしているが、そのためには地球電磁気トモグラフィーとともに地震波トモグラフィーというリモートセンシング的手法を用いるほか手段はない。また、データセンターを構築・運営することによって、当該領域メンバーの研究推進に寄与する。
領域内での研究の有機的な結合により、新たな研究の創造が期待できる点
本研究で推定される滞留スラブの形状やマントル不連続面凹凸と電気伝導度構造といった地球物理学的な滞留スラブモデルを互いに結合することにより、滞留スラブの温度や含水率などを推定することができ、それらはさらにモデリングに対する入力データや境界条件として用いられる。
また、スラブ内部の準安定相や海洋性地殻のイメージングと超高圧高温実験の結果とから、マントル遷移層付近でスラブに働く負の浮力を推定することができ、スラブの滞留やその下部マントルへの崩落をモデリングする上で鍵となるデータを与える。このような地球物理学的構造推定・超高温高圧岩石学・シミュレーション科学の有機的結合は従来不十分なところであり、地球内部ダイナミクスの新しい展開となることが期待できる。
当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
本研究の特色は、従来、海域であることやアクセス困難であるために観測が難しかった地域での観測データと日本の高密度観測データを併合解析することによって、西太平洋沈みこみ帯全域の太平洋スラブが上部マントルから下部マントルへどのような過程を経て沈み込んでいくのかを明らかにできることである。スラブの遷移層周辺での滞留と崩落は、マントル対流の非連続性・間欠性を作り出す重要な過程である可能性が高い。本研究で得られる滞留スラブのイメージは、超高圧・高温岩石学と結合させて温度や組成の推定に用いられ、さらにそれらがモデリングに利用されることによって、全マントル規模の対流・物質循環のモデル構築へと発展することが期待できる。
国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ
 3次元マントル構造の研究は欧米、日本の研究者によって80年代以降活発におこなわれている。その中で、滞留スラブは90年代から本研究の分担者(深尾、大林)によって提唱されて以来常に議論をリードしてきており、ここ数年でその存在についての国際的コンセンサスが固まった。しかし、多くの沈みこみ帯が地震観測が困難な海域であるため、現在国際的に流通しているデータから得られる滞留スラブ・モデルの分解能には限界があり、滞留スラブの規模や速度異常などに対する分解能は、超高圧高温岩石学の結果と結びつけてモデリングを行うには不十分である。本研究では、当該領域の他研究課題で得られる海底観測データやロシアのデータを取り入れることによって、従来の分解能の限界を大きく超えることができる。また、スラブ滞留に関係するスラブの内部構造の研究には非常に高密度の観測データが必要であり、そのような研究は国内外を見渡しても少ない。日本におけるHi-net、F-netなど高密度観測の展開と同期した本研究によって初めてスラブ内部微細構造の推定が可能になる。また、海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア(以下IFREEと略称)はこの既存の観測網から各種地震波走時を系統的に測定してデータベースを構築中であり、当該領域研究で得られる新たなデータと併合して最大限の結果を得る準備ができている点で他の国内外の研究と一線を画する。

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