研 究 目 的
研究目的
 本計画研究は,海底電磁気機動観測によるデータと既存の海半球電磁気ネットワークによる観測データとを統合して電磁気トモグラフィ解析を行い,日本およびフィリピン海を含む西太平洋域の巨大なスタグナントスラブを電気伝導度によって実体視することを目的として5年間で実施する.具体的には,以下の3項目の達成をめざす.
(1) フィリピン海において,長期型海底電磁力計(LOBEM)による1年間の観測を合計3回実施する.
(2)3回の機動観測によって得られる長期高密度観測データに既存のネットワークの長期観測データを加えて,マントル遷移層におけるスタグナントスラブに焦点をあてた電磁気トモグラフィー解析を行う.
(3) 地震波トモグラフィー結果との直接比較により,スタグナントスラブの形状変化とその原因を解明する.
領域内での研究の有機的な結合により、新たな研究の創造が期待できる点
 近年のマントルダイナミクス研究の発展の最も重要な推進力の一つになっているのが,地球内部構造の研究である.特に,「海半球ネットワーク」などの固定観測網を用いた地震波トモグラフィーによるスタグナントスラブの発見とその一般化は,我々の観測研究グループが世界に先駆けて得た成果である.しかし,固定観測網によって得られる描像は,きわめておおまかなものでしかなく,さらに,地震学で得られる情報のみでは限界がある.当該領域は,北西太平洋に存在するスタグナントスラブに焦点を絞って,(a)稠密な地震観測,電磁気観測を行って,(b)高分解能トモグラフィー解析を行い,その結果と,(c)高温高圧実験および(d)対流の計算機モデリングとによって,マントル流のダイナミクス解明を目指して設定される.本計画研究は,このうち(a)と(b)について海底電磁気観測および海底電磁気トモグラフィー解析を実施し,領域全体の研究の推進に寄与する.また,研究の準備状況の項で示すように,機動観測により目標達成に十分な分解能が得られる見通しもついている.
冷たいマントル下降流は周囲のマントルに温度擾乱をもたらす.地震波トモグラフィーでイメージされる,日本列島周辺の下降流とスタグナントスラブに対応する高速度異常領域の異常は,この温度場の擾乱によるものと考えられている.しかし,温度場の擾乱を他の効果(部分溶融や水の効果や鉱物化学組成など)から分離することは地震波トモグラフィーだけでは不可能である.ここに本計画研究で行う電磁気トモグラフィーの重要性がある.電気伝導度という地震波速度とは独立なパラメータと速度構造との直接比較,さらには高温高圧実験による物性測定を組み合わせた研究は未開拓の分野である.当該領域における研究により,スタグナントスラブだけでなく,深部マントルダイナミクスを解明するための新たな手法の確立に発展することが期待される.
当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
 本計画研究の独創性はマントル深部の3次元電磁気トモグラフィーによって電気伝導度のイメージングを行い,地震学とは独立な情報を加える点にある.地殻や上部マントルの電気伝導度の研究は,数多く行われているが,マントル遷移層までの3次元トモグラフィーは極めて新しい試みである.さらに本研究では,海底電磁気機動観測を実施する事により,既存の観測網のデータでは実現不可能な高解像度イメージングを世界で初めて試みる.その結果を地震波トモグラフィーや物性測定結果と比較することにより,地震波構造のみによる温度場の推定にある不確定性を格段に軽減することができる.以上の点が本研究の特徴であり,スタグナントスラブの形状の把握とそのマントルダイナミクスに果す役割の解明に大きく貢献することが期待される.
国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ
 電磁気トモグラフィーの開発は,米国・英国・フランス・ロシアなどのグループがしのぎを削っているが,実データの解析で結果を出している点で,我々が明らかに一歩先んじている.海底長期電磁気機動観測による構造研究では,米国やフランスなどでも進んだ研究がなされているが,いずれも上部マントルまでの深さに限定され,下部マントルまでの構造を明らかにできる点で,我々の研究が世界をリードしていると断言できる.マリアナ島弧の地殻・上部マントル構造については,基盤研究B(代表:島伸和,神戸大理)による研究が実施されつつあるが,本計画研究とは対象とする深さが異なるという点で相補的な関係にある.

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