目次へ

次へ

ネットワークデータセンターシステム(NINJA)を用いた
諸外国機関とのデータ交換の試み


竹内 希(東京大学地震研究所)、綿田 辰吾(東京大学地震研究所)
坪井 誠司(横浜市立大学理学部)、深尾 良夫(東京大学地震研究所)

 地震波形データを解析して地球内部構造や地震の震源過程を研究する場合、多くの観測点のデータを同時に解析することにより高解像度のモデルを推定できる。近年、莫大なデータ量を用いたデータ解析が一般的になりつつあり、今後ますます重要な研究課題になると考えられている。様々な地震計ネットワークのデータを一括取得できるようなシステムを構築すれば、このような研究のさらなる進展に貢献できると考えられる。
 この重要性は諸外国でも認識され、様々な地震計ネットワークデータを統合化する試みがなされている。例えばFDSN(http://www.fdsn.org/)と呼ばれる世界各国の広帯域地震計ネットワークの連合組織が結成され、米国のIRISが中心となって、世界の主要観測点データの統合データベースの構築・公開が行われている。また、ヨーロッパ12カ国が協力しあい、ORFEUS(http://orfeus.knmi.nl/)と呼ばれる地域連合を結成し、ヨーロッパ地域の広帯域地震計ネットワークの統合データベースが構築・公開されている。一方で、西太平洋地域に目を向けると、日本・台湾・米国などの国の諸機関により、非常に稠密な広帯域地震計ネットワークが展開されている(図1)ものの、国際協力はおろか、 日本国内でもデータベースの統合化がなされていないのが現状である。

図1 西太平洋地域に展開されている広帯域地震観測網。黒印が OHP、灰印が IRIS/IDA・IRIS/USGS及びIRIS/CDSN、白印がその他のネットワークを示す。(b)は日本周辺の拡大図。

 海半球データセンターでは、NINJA システムと呼ばれるネットワークデータセンターシステムを開発してきた(海半球ニュースレター No. 3、4)。このシステムは、ネットワークを介した分散処理技術を Java RMI を用いて実装することにより、様々な地震計ネットワークのデータを、単一インターフェース・国際標準フォーマットでユーザーに提供するシステムである(図2)。このシステムを用いれば、比較的容易かつ安価に、仮想的にデータベースの統合が実現できる。またそれぞれのデータベースの管理は各データセンターが行うため、それぞれのデータベースは常時更新され、ユーザーに最新データを提供できるという利点もある。

図2 NINJAシステムの概要

 我々の開発したシステムで、将来的な国際統合化データベース構築の実現可能性を見積もるため、台湾や米国の機関の協力を得て、3カ国にまたがるネットワークデータセンターを構築した。現在までに設置されたアプレット版ディスパッチャー(Web経由でユーザーリクエストを受け付けるホスト)及び RMIサーバー(データベースからリクエストされたデータを提供するホスト)の一覧を表1に示す。データ提供されている観測点数は、日本のネットワーク(OHP、JMA、EOC、GEOTOC)約60点、台湾のネットワーク(BATS)約15点、米国のネットワーク(IRIS/IDA、IRIS/USGS、IRIS/CDSN)約120点である。ホスト間の通信速度などは十分実用に耐えうる範囲内であり、ソフトウェアの安定化・最適化を実施すれば、国際統合化データベースは構築可能であると考えている。

ディスパッチャー(アプレット版)
URL 設置場所
http://ohpdmc.eri.u-tokyo.ac.jp/ 東京大学地震研究所, 日本
http://odin.earth.sinica.edu.tw/  中央研究院地球科学研究所, 台湾 
RMIサーバー
地震ネットワーク名 URL 設置場所
OHP ohpsrv.eri.u-tokyo.ac.jp 東京大学地震研究所, 日本
JMA ocean.eri.u-tokyo.ac.jp 東京大学地震研究所, 日本
EOC ohpsrv.eri.u-tokyo.ac.jp 東京大学地震研究所, 日本
GEOTOC ocean.eri.u-tokyo.ac.jp 東京大学地震研究所, 日本
BATS aeolus.earth.sinica.edu.tw 中央研究院地球科学研究所, 台湾
IRIS/IDA

IRIS/USGS

IRIS/CDSN

dmc.iris.washington.edu IRIS DMC, 米国
表1 2001年5月現在のディスパッチャー(アプレット版)及びRMIサーバーの一覧

 現在海半球データセンターで運用されている NINJA システムは、2002年に設立される固体地球統合フロンティアシステムにて引き継がれる予定になっている。ここでは日本の広帯域地震計ネットワーク統合化データベースの構築も予定されている。これらが完成すれば、NINJA システムを通じて、西太平洋地域の統合データベースが、世界中の主要観測点のデータと共に提供されることになる。

目次へ

次へ