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平成12年度の研究成果

システム開発研究班(第3班)


[超伝導重力計観測]
1)観測状況
 超伝導重力計(SG)観測班では、平成11年9月に海外では第4番目の観測点に当たる北極ニーオルスンでの観測を開始した。この観測点の立上げで、広い間隔ではあるが北極から南極までをカバーする国際観測網でのSG同時観測データが得られている。
 平成12年5月にニーオルセンのSGの液体ヘリウムの充填を行った。この作業は京都大学が実施した。ニーオルセンでは、観測室に設置されているチラー(ヘリウム冷凍機のコンプレッサー用冷却機)による室温変化が問題となっていた。懸案であったチラーの移設を実施し、観測環境は格段に改良された。キャンベラについては、10月に液体ヘリウムの補充を行った。またバンドンは大型のSGでの観測が行われており、5月と12月の2回、液体へリウムの充填を行った。5月には、コンプレッサーのヘリウムガスラインの洗浄を行った。これによりコンプッレッサーの性能が回復し、液体ヘリウムの蒸発量も正常値に戻った。
 海半球ネットワークデータセンターに観測データを送り、データセンターのホームページで生データを公開した。今後とも、データの整理が済み次第、順次公開をして行く。

2)研究成果
 平成12年8月28日から9月1日の5日間、水沢市で国際測地学協会(IAG)第5委員会(地球潮汐)、学術会議測地学研究連絡委員会、日本測地学会、そして国立天文台が主催する、第14回地球潮汐国際シンポジウム(ETS2000)が開催された。このシンポジウムで講演された論文は、測地学会誌第47巻1号(ETS2000特集)として13年3月25日に発行された。SG関係の論文も多数発表された。
 ニーオルセンのSGデータ(観測開始から324日分)の短周期潮汐解析結果と、Matusmoto et al.(2000)により開発された、人工衛星高度データに同化した全球海洋潮汐モデルと1066A地球モデルを使って計算した地球潮汐モデルとの比較を行った。その結果、N2分潮のような小さな振幅(約0.3μgal)の分潮についても約2%の誤差で再現できることが分かった。今後の観測データの蓄積で、流体核共鳴といった現象も、十分に議論できる。なお、Matsumoto et al.の海洋潮汐モデルは、国立天文台・水沢のホームページ(http://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/)で公開されている(Sato et al., J. Geod. Soc. Japan, Vol.47, No.1, 341-346, 2000, Matsumoto et al., J. Geod. Soc. Japan, Vol.47, No.1, 243-248, 2000)。
 京都とバンドンのSGデータの潮汐解析結果と海潮汐荷重の見積との比較から、地球の潮汐帯での粘性による位相変化が調べられた。その結果、観測値は地震波モデルから予測される値より10倍以上大きく、これにはデータに含まれるスパイク状ノイズの処理、また地下水変動の影響の見積精度が影響している可能性がある(Mukai et al., J. Geod. Soc. Japan, Vol.47, No.1, 261-266, 2000)。
 バンドンでは平成12年2月から地下水位の観測をSG観測と並行して実施している。これで得られた地下水位変動と長周期の重力変化がよい相関を持っていることがわかった。数μgalレベルの長期変動を十分にとらえている。地下水の変動については、大気潮汐(日本に比べて半日周期の潮汐S2の振幅が大きい)に対応した気圧変化との相関も大変明瞭である。観測された重力変化は地下水位の変動によるとして、ブーゲーモデルを仮定して計算した結果、地下の空隙率が18%と見積もられた。この空隙率の値は、この地域(火山堆積層)の値として妥当なものと考えられる。これらの成果は地球惑星科学関連学会2001年合同大会で発表する。
 地下水の影響が比較的少ないと考えられる江刺、キャンベラ、昭和のSGデータを使い、年周重力変化について解析した。その結果、3観測点のいずれにおいても、観測値が固体潮汐、極運動、海面高(Sea Surface Height, SSH)の変動を考慮したモデルでうまく説明できることが分かった(裏表紙の図)。この計算では海水の熱膨張の補正に、SSHデータと海面水温データから推定した0.6 cm/℃の値を使ったが、それとは独立なデータである重力データもこの値を支持していることは大変に注目される。また、今回の結果は、GRACEやCHAMPと言った重力衛星データの検定や検証にSG観測網のデータが有用であることを示唆している(Sato et al., Physics of the Earth and Planetary Interiors, 103, 45-63, 2001)。

裏表紙 超伝導重力計で観測された年周重力変化とその解釈

(上)ベクトルで表現された、観測された年周成分と予測値との比較。横軸は実数部、縦軸は虚数部を示している。単位はμgal。観測値、極運動の影響、地球潮汐の影響が、それぞれ黒、赤、緑のベクトルで表されている。黄色、青、桃色のベクトルは、海洋大循環モデルPOCMによるデータを使って計算した海面高(SSH)変動の影響。色の違いは、海水の熱膨張の補正に使った係数の違いを示しており、順に0.0E-2 m/deg, 0.60E-2 m/deg and 1.0E-2 m/degの値が使われている。係数0.60E-2 m/degはSSHと海面温度データから決めた値で、重力観測値がこの値を支持することが注目される。

(下)SSHデータとして、TOPEX/Poseidon高度計データを用いた、同様なプロット。


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