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地球主磁場中の非双極子磁場の起源

浜野洋三(東京大学大学院理学系研究科)

1.はじめに
 海半球ネットワーク計画は、地震、地球電磁気、測地のグローバル観測のためのネットワークを太平洋域に展開し、コアとマントルの活動をとらえ、その活動の原因を解明することを目的としている。海半球計画の一つの柱である電磁場変動の観測では、地球の主磁場を作っているコアの活動、コアーマントル境界を通したコアとマントルの相互作用、そしてマントル中の電気伝導度の分布を知ることが主要な目標である。
 地球の表層では、良導体である海水を満たした海と陸地の分布により、電気伝導度の分布は水平方向に不均質となっている。このため電磁気的な観測データを解析するためには、この不均質性を考慮することが重要となる。電気伝導度が水平方向に一様でないのは地表付近だけでなく、上部マントルについても電磁気観測から不均質な構造を持つことが知られてきた。また、地震学トモグラフィーの解析からはマントル最下部のD"層が地震波速度が不均質に分布する場所であることが明らかとなっている。この原因としては温度だけでなく物質(特に鉄の量)の不均質があることが考えられ、この層が電磁気的にも不均質なことを示唆している。
 このような電磁気的に不均質な地球内部での磁場の振る舞いを解析するための手法の一つが、海半球ネットワーク計画で開発された。この方法は、従来の方法が周波数領域での不均質球の電磁気的応答を調べるのに対して、時間領域での過渡的な応答を解析し、磁場のトロイダルーポロイダル分解と球関数展開を用いるもので、グローバルな磁場の振る舞いを調べるのに見通しのよい方法である。この方法を用いた解析の結果として、コア起源の磁場がD"層での電気伝導度不均質によって大きく変貌することが明らかとなり、地球の主磁場のなかで軸対称性を持たない非双極子磁場は、このD"層で作られたものである可能性が示された。

2.地表で観測される磁場
 地球の磁場は、地磁気観測所での定常的な観測、陸上や海上での磁気測量、そして人工衛星による観測によって調べられている。これらの観測データに基づくグローバルな磁場の分布は5年毎に国際標準磁場(International Geomagnetic Reference Field: IGRF)としてまとめられている。地表で観測される地球磁場は、高層の電離圏、磁気圏に流れる電流が作る外部磁場と、コア起源の内部磁場が重なったものであるが、IGRFとしてまとめられた地球の主磁場は、コア起源の磁場をあらわすものと考えられている。コア起源の磁場は、地球中心に置かれた棒磁石が作る双極子磁場が卓越していて軸対称性が強いが、経度方向に短かい波長で変化する非双極子磁場も含まれている。これらの非双極子磁場のつくる鉛直方向の磁場(Z成分)の空間分布を図1に示す。

図1 地球磁場の鉛直成分の分布(1900年ー2000年IGRFの平均値)

 この非双極子磁場の特徴は、幾つかの磁場の目玉(磁場強度が大きい場所)が見られることである。図1では北半球の高緯度に見られる二つの正の磁気異常が顕著であるが、南半球の高緯度及び太平洋の真ん中にも同じような磁気異常がみられる。これらの磁場の目玉は最近400年間の解析結果でも同じ場所にとどまっており、ほぼ定常的に存在している。地球の主磁場の起源は地球中心部にあるコアでのダイナモ作用によっているが、このダイナモ作用は基本的には経度には依存せず、経度に依存する非双極子磁場が同じ場所にとどまっていることは、コアーマントル境界を通したマントルとコアの相互作用の証拠とされている。コアとマントルの相互作用としては、境界地形の凸凹や温度不均質がコアの流れ場に影響を与えるとするモデルが幾つか提案されているが(Bloxham and Gubbins, 1987; Yoshida and Hamano, 1993; Zhang and Gubbins, 1993)、コアーマントル境界で起こっている現象を特定するには至っていない。

3.コアで生成される磁場
 コアではダイナモ作用によって磁場が生成維持されている。コアは流体の外核と固体の内核の2層に分けられるが、金属鉄を主成分とし、電気を通す導体である。磁場は流体である外核で生成、維持されている。コアでの磁場は2つの種類に分けられる。これらはトロイダル磁場とポロイダル磁場とよばれるものである。図2に示すように、ポロイダル磁場は半径方向の成分を持ち地球の表面でも観測される。一方、トロイダル磁場は半径方向の成分を持たず、電気伝導度の低いマントル中で減衰し、地表では観測できない。コアでは、図3に示すように流体の運動によってトロイダル磁場からポロイダル磁場が作られ、ポロイダル磁場からトロイダル磁場が作られる。この過程によってトロイダル磁場とポロイダル磁場が互いに強めあいながら、一定の磁場を保っているのがダイナモ過程である。

図2 トロイダル磁場とポロイダル磁場
図3 ダイナモ過程の説明

 コアで起こっている磁場の生成過程を解明するためには、ポロイダル磁場とトロイダル磁場の両方を知ることが肝要であるが、地表で観測されるのはポロイダル磁場だけであり、これがコアのダイナモ過程の実態を把握する上での困難な点であった。海半球計画ではコアのトロイダル磁場を実測することも重要な目標であり、全長数千kmの海底ケーブルを用いた超長基線での電場測定が続けられている。トロイダル磁場に付随する電場はポロイダルであり、この電場によって電流が半径方向にも流れることから、コアから漏れ出した電流を地表でとらえようとする試みである。今のところ観測期間が短いために、コア起源の電位差を抽出するには至っていない。本稿で述べる結果は、電場測定とは別の方法によるコアのトロイダル磁場実測の試みでもある。

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