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地球主磁場中の非双極子磁場の起源
(続き)

4.マントル中を伝わってくる磁場
 地表で観測されるコア起源の磁場は、マントル中を伝わってくる間に変形を受ける。マントルの電気伝導度が半径方向にしか変化しない場合は、この変形は主にマントル中を伝搬することによる幾何学的な減衰である。幾何学的な減衰は、水平方向の波長が小さいものほど急激に減衰するため、地表では長波長の成分が卓越する。図1に見られる波長が数千km程度の磁気異常では、振幅がコアの表面に比べて10分の1以下になっている。これまでに知られているマントルの電気伝導度の分布では、上部マントルは0.01 - 0.1 S/mの低い値を持つが、400 kmから700 kmの遷移層で1 S/m程度に増加する。またマントル最下部のD"層の電気伝導度は10 - 1000 S/mと高くなっているだろうと考えられている。
 このような電気伝導度分布を持つマントル中での、時間的に一定なトロイダル磁場とポロイダル磁場の振幅変化の様子を図4に示す。定常的なポロイダル磁場のマントル中での減衰は、マントルの電気伝導度分布には依存せず、絶縁体である大気と接した地表でも観測することができる。一方、トロイダル磁場の変化は、マントルの電気伝導度の分布に依存し、高い電気伝導度を持つD"層内で急激に減少してしまい、表面では0になるので、地表では観測できない。ここで重要なことは、球対称構造を持つマントル中でのトロイダル磁場とポロイダル磁場の間には相互作用はなく、それぞれが独立に変化するために、マントル中で新たにポロイダル磁場からトロイダル磁場が作られたり、トロイダル磁場からポロイダル磁場が作られるようなことは起こらないことである。

図4 球対称マントル中での磁場振幅変化(左)電気伝導度分布、(中)ポロイダル磁場の分布、(右)トロイダル磁場の分布

 しかし、電気伝導度が水平方向に一様でない場合はこの状況は違ってくる。水平方向の不均質によって、トロイダル磁場とポロイダル磁場の間に相互作用が生じる。この相互作用によって、トロイダル磁場からポロイダル磁場がつくられ、ポロイダル磁場からはトロイダル磁場が生じる。この過程は、図3に示すコア内での磁場の生成過程と同様であり、コア内での流体運動の役割を、マントル中では、電気伝導度の水平方向不均質が果たし、水平方向に電気伝導度が不均質なマントル中では一種のダイナモ作用が起こっている。
 この過程でトロイダル磁場から作られるポロイダル磁場は、地表でも観測される可能性があるために重要となる。不均質層内でトロイダル磁場からポロイダル磁場が作られるメカニズムは、電流で考えたほうがわかりやすい。図4に示すトロイダル磁場の半径方向の勾配は、水平方向に流れる電流の強さと等価である。コア表面のトロイダル磁場によって水平方向に電流が流れるが、この電流は図4の例では主にマントル最下部のD"層内に集中する。D"層内の電気伝導度が水平方向に一様である場合には、この電流系からポロイダル磁場は作られない。しかし、電気伝導度が水平方向に不均質な場合は、この電流の強さが水平方向に変動するため、それによってポロイダル磁場が作られる。

5.D"層で作られる磁場の様子
 最初に述べた新しい解析方法によって、このD"層での過程によって作られる磁場の様子を調べた。地震学トモグラフィーから見積もられているマントル最下部での地震波速度の平均値からのずれは±3 % 程度である。また、不均質のパターンは、図5に示されるように、太平洋の北半球低緯度から南太平洋にかけて地震波速度の遅い領域が広がり、一方、太平洋を挟む両大陸には地震波速度の速い領域が南北にのびて分布する。このようなマントル最下部の地震波速度分布は多くのトモグラフィーモデルに共通にみられるものである。ここではLi and Romanowicz (1994)によるモデル:SAW12D (depth = 2850 km)を用いて、D"層の電気伝導度分布を推定した。地震波速度異常の原因としては温度または鉄分等の組成の不均質が考えられているが、地震波速度を減少させる原因である高温及び高い鉄の含有量はどちらも電気伝導度を増加させることから、地震波速度の遅いところが高い電気伝導度を持つとした。地震波速度のずれ±3 % に対して、電気伝導度の変動振幅は±40 % 程度に設定した。このモデルでは、電気伝導度の低いところと高いところの比が最大で10倍程度となっている。

図5 マントル最下部の地震波速度不均質。モデルSAW12D (Li and Romanowics, 1994)

 このようにして得られたD"層の電気伝導度不均質モデルにより、コア表面でのトロイダル磁場からD"層内で作られるポロイダル磁場の計算をおこなった。コアの表面でのトロイダル磁場は軸対称成分が卓越すると考えられていることから、図2に示すようなトロイダル磁場だけを与えている。計算結果は、コア表面での東西方向に向いたトロイダル磁場がD"層内でねじ曲げられ、ポロイダル磁場が生じることを示している。これらのポロイダル磁場の強さは、地表ではコア表面でのトロイダル磁場の強さのおよそ1000分の1程度であることがわかった。またD"層内で生成されるポロイダル磁場は、双極子等の長波長で軸対称な成分は小さく、短波長で経度方向に変化する軸対称でない成分がより効率的に生成されることが確かめられた。コア表面でのトロイダル磁場の強さの緯度分布をパラメーターとして、上に述べた計算を繰り返し行い、図1に示す地表でのポロイダル磁場を再現できるモデルを求めることを行った。この解析によって得られた地表での磁場の分布を図6に示すが、図1のIGRFの非双極子磁場の分布とよく似通っていることがわかる。また、この地表磁場を作るために必要なコア表面のトロイダル磁場強度の緯度分布を図7に示す。図1に示す非双極子磁場の変動の振幅(±10,000 nT)を作り出すためには、コアでのトロイダル磁場の強度は平均して8 mT程度必要であることがわかる。

図6 D”層で作られた磁場の地表での鉛直成分の分
図7 コア表面でのトロイダル磁場強度の緯度変化


参考文献
Bloxham, J. & Gubbins, S., Thermal core-mantle interactions, Nature, 325, 511-533 (1987).
Li, X.D. & Romanowicz, B., Global mantle shear velocity model developed using nonlinear asymptotic coupling theory., J. Geophys. Res., 101, 22,245-22,272 (1996).
Yoshida, S. & Hamano, Y., Fluid motion of the outer core in response to a temperature- heterogeneity at the core-mantle boundary and its dynamo action., J. Geomag. Geoelectr., 45, 1497-1516 (1993).
Zhang, K. & Gubbins, D., On convection in the earth's core forced by lateral temperature variations in the lower mantle., Geophys. J. Int., 108, 247-255 (1993).

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